人が集まる新潟の自動車整備工場
新潟県内を拠点に自動車関連サービスを提供しているMARUYAMA GROUPの中核である丸山自動車は、もともと町の小さな自動車整備工場だった。1995年には従業員20人ほどの小さな会社だったが、約30年経った現在、グループの従業員は392人に増えた。
当時の自動車整備工場は、いわゆる3Kの職場だった。丸山自動車は1995年に「車検のコバック」に加盟したことで、会社が急成長し、従業員も増えていった。しかし、事業の拡大に人が追いつかず、労働環境はどんどん悪化していった。
危機感を持って変え始めたのは2002年。10〜20年かけて様々な取り組みを行い、社内の雰囲気を一歩ずつ良くしていった。その結果、新卒入社3年以内の離職率は6.8%となった。
人が集まる会社は「雰囲気」がいい
人の集まる会社と辞めていく会社の違いは「雰囲気」である。会社説明会に来てくれた就活生や入社数年の若手に、会社を選んだ理由を聞くと「雰囲気が良かった」「先輩社員たちが明るくて楽しそうだった」「アットホームな会社で居心地がいい」といった答えが真っ先に返ってくる。就活生や若手社員にとって、会社選びで最も重視するのは職場に漂う空気感なのである。
待遇を良くしたり成長機会を用意しても、普通の学生たちには響かない。それよりも、職場が明るく、社員がイキイキと働いているかどうかを真剣に見ている。入社した後も同じである。中小企業で働く人たちは、お給料の高さや成長機会の有無に過度な期待をしていない。業界水準を満たしていれば、それらを不満に思って退職するケースは多くない。退職理由のNo1は人間関係である。職場の雰囲気がギスギスしていてストレスが溜まるから転職を考えるのである。
職場のコミュニケーション、働きやすさや働きがい、それらを支える制度やカルチャー。こういったものが組み合わさって、職場の雰囲気が形成されている。
勘違いしてはいけないのが「楽しい仲間がいる=仲良しクラブ」ではないということ。明るく楽しい職場といっても、休憩室の雰囲気を店頭に持ち込むと、だらけて活気のない職場になる。明るさや楽しさにもTPOがあって、その場に相応しい明るさや楽しさが求められる。この区別がついた職場が、いい職場である。
伸びている会社に人が集まる
人が集まる会社には「事業が伸びている」という共通点がある。中長期的には成長トレンドにある、もしくはそのトレンドに向けて挑戦中である会社に人は集まる。事業の成長が人の集まりに影響するのは、事業の伸びが会社の雰囲気と直結しているからである。
売上が伸び悩んでいる会社は、やはり職場の雰囲気が悪い。経営者やマネジャーは切羽詰まった表情をしているし、それを受けて現場のスタッフは追い立てられるように仕事をして、職場にはやらされ感が蔓延していく。
一方、伸びている会社は、みんなが自信に満ち溢れていて、発想も未来志向になる。当然、職場の雰囲気も明るいし楽しい。そして雰囲気の良さが人を惹きつけて、さらに事業を伸ばすエンジンになっていく。
丸山自動車が人の集まる会社になったのも、事業が右肩上がりで伸び続けてきたことが背景にある。丸山自動車の車検事業は「車検のコバック」のフランチャイズだが、現在の7店舗はすべて地域でダントツ1位である。売上は2001年12月期7億円から、20年で10倍に成長し2021年12月期は77億円となった。
20年で売上が10倍に伸びたのは、中心である車検事業で競合に勝ってきたこと、そして総合自動車サービスに転換したことが大きい。
「車検のコバック」が画期的だったのは透明性である。かつての自動車整備工場は、車検を頼むと見積もりももらえず、必要のないところまで部品が交換されて、請求書が送られてくる有様だった。車検のコバックは、店頭でお客様と一緒に車を見て、車検を通すために必要な個所や今後不具合が出そうな箇所を確認して、事前に見積もりを出した。当時それをやっている車検チェーンはなく、大変なインパクトがあった。
また、かつての自動車整備工場は、路地裏や住宅街に工場を構えていた。車検のコバックは一等地に店を置き、引き取り納車をやめて、お客様に店頭まで車を持ってきて頂き、代車を無料で提供するシステムにした。
市場でパイの取り合いを続けていると、いずれは疲弊する。しかし、販売から保険、車検、事故を起こした時にはレッカーや鈑金というようにお客様が自動車を購入するプロセスからお付き合いさせてもらえば、市場が実質的に何倍にも膨らんでいく。丸山自動車は、このお客様から生涯にわたって得られる利益LTVを伸ばすことで成長を続けてきた。