なぜ「弱い」チームがうまくいくのか

発刊
2022年4月27日
ページ数
224ページ
読了目安
258分
推薦ポイント 4P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

これからの社会に必要なチームのあり方
障がいのあるアーティストを支援するアトリエインカーブの代表が、ソーシャルデザインの視点から社会に必要な目指すべきチームのあり方を説いた一冊。
強い人だけで構成されるチームはうまくいかないとし、弱い人を含めた多様性あるチームの重要性とこれからの社会のあり方を紹介しています。

ソーシャルデザインでチームをつくる

極論すれば、強い人は生き残れない。人は、強い人を助けようとは思わない。だから、弱い人でなくては生き残れない。弱いからチームを組んで生き延びようとする。私一人では生きる術を持てなくても、チームでなら、それぞれの幸せをつかむことが可能である。

 

俯瞰的に見れば、個人の幸せも、チームの幸せも、社会が壊れたら実現しない。社会はあなたを守り、あなたは社会を守らなければならない。そうでないと幸せになれない。個人のミクロ的視点から、チームのメゾ的視点を経て、社会のマクロ的視点まで、一気通貫の幸せが実現できなければ、幸せになれない。

人口減少の社会が加速すると、一般的に「弱い人」にも経済活動に参加してもらわなければ、日本の社会は立ち行かなくなると考えられている。障がい、病気や怪我、出産や育児、介護で望まない働き方を強いられている人や高齢者など、様々な経歴やバックボーンのある人々が集まり、共に生き、社会をつくっていくことが必要である。もう多様性を抜きにしたチームづくりは不可能で、誰にとっても差し迫った課題なのである。

 

社会の幸せをつくる大切な制度に社会保障(社会保険、社会福祉、公的扶助、保険医療・公衆衛生)がある。その中心的な仕組みである社会保険の原型は「ギルド」の互助制度だと言われている。ギルドというチームは、利益追求を第一義とした組織ではなく、メンバーの生活を保障するためにあった。師匠は、秩序のあるルールを維持することで、不必要な競争を防ぎ、自分たちの仕事と労働環境を守っていた。

 

社会的課題を解決するソーシャルデザインを考えるなら、このギルド的チームがお勧めである。それは、チームを構成するメンバーが共通の目的のために自発的に結びつき、協働するチームである。
ただ、ギルド的ではなく、ギルドを目指すと欠点がある。ルールは必要だが、度が過ぎると思考を欠如させた同調圧力が生まれる。そうならないために2つの方法がある。

  1. 他者の視点から想像して、あなたの考え方と私の考え方は全く同じではないと慮る。
    そのためには、自分の姿をもう一人の自分が離れた場所で見ていると言う冷静さが必要である。
  2. 仏教の「縁」の考え方を採用する。
    縁があるからチームの一員になり、縁が尽きればチームから離れる。

目的のために自発的に結びつき、協働しながらも、度が過ぎた干渉をしないのが、ギルド的チームである。

 

目指すべきチーム

誰にも弱みを見せない人、強さを常に装う人はチームの足を引っ張る。そもそも、チームという集団は「弱い人」で形成されているので、強がりな人がいるとチームの調和が乱れるからである。チームに加わりたいなら強く見せかけずに弱い人になることである。そして、自分が弱い人だと知ることである。

 

チームは、力のある者だけに果実が分配される「弱肉強食」では長く続かない。勝者もまた敗者になる。一方でチームは、平均的な能力のあるメンバーだけを集めても生きながらえることはできない。多様性を失ったシステムは環境の変化に対応できず絶滅する。つまり、チームは「強い人」だけでは構成できない。

メンバーを構成するには、世間的には「弱い人」と呼ばれているメンバーを中心にチームを構成することである。社会福祉の団体や宗教の共同体はながく生き延びている。それは中心に「弱い人」を組み込み、育て、慈しむことを目的とすることで生き延びてきた。タフな戦いに勝利するには「守るべき人」が必要なのである。

 

多様性とは、壁を壊して多様なものを1つにすることではない。私たちが目指す共生社会は、バラツキのある社会である。言語も宗教もバラバラである。違いをひとまとめにせず、お互いを認め合うこと。違いが交差すれば、新たな違和感も生まれるが、それ以上に新たな希望も見つかる。バラツキのある社会でマゼコゼを是とするのが、目指すべきチームの姿である。

私たちにできることは、個々の壁の存在を尊重し、壁の高さや分厚さに違いがあることも認めた上で、立ちはだかる巨大な壁に押しつぶされそうなメンバーがいたら、「もう壁はないものとして」という願いを声にすることである。わかり合えないからこそ、話をしたい。リーダーが壁の中に閉じこもったままのメンバーにできることは、その壁を消すことではなくて、願いを伝えることだけである。