GAFAMに共通する考え方
GAFAM、即ちグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトの企業運営は、他の企業とは驚くほど異なっている。各CEOのザッカーバーグやジェフ・ベゾス、サンダー・ピチャイ、サティア・ナデラを見ると、みんな命令するよりもむしろ、手助けする方に熱心な熟練のエンジニアだ。自分で答えを出すのではなく、質問する。売り込むのではなく、聞いて学ぶ。そこには、共通のパターンがあり、テックジャイアントの仕組みとその成功との関連には否定できないものがある。
アマゾンが生まれてから25年間、ベゾスは社員たちに対して、毎日がアマゾンの創業初日であるかのごとく働くように促してきた。アマゾンの「創業初日」とは、それまでの実績にとらわれることなく、スタートアップ企業のように創意工夫するという意味だ。特に、人工知能とクラウド・コンピューティングの発展によって、競争相手が記録的な速さで新製品をつくりだせるようになった今日、現在を犠牲にしてでも未来に向けて構築していく方を取ろうという信念でもある。
新たな発明が成功するたびに、アマゾンは「創業初日」に立ち戻って次を考え出す。現在テックジャイアントと呼ばれている企業を見ると、どこもアマゾンと似たような経緯をたどっていることに気づく。「創業2日目は死」である今日のビジネス界では、再発明こそが生き残りのカギなのである。
革新的な企業運営とは、ビジネスのやり方を常に捉え直し、働き方を改革することでようやく可能になるものだ。仕事には2種類ある。
- アイデア・ワーク
何か新しいものの創造につながるあらゆる仕事をいう。新製品を考え出すことや、それをつくるための方法を考案すること、それを発表して製作することだ。 - 実務ワーク
アイデア・ワークでできあがったもののサポートにつながるあらゆる仕事をいう。製品の発注やデータの入力、帳簿の管理、施設管理などである。
工業経済の時代には、ほとんどすべての仕事は実務ワークだった。企業の創業者がアイデアを思いついたら、実務のためだけに従業員を雇った。しかし、時代は工場に支配される経済から、アイデアに支配される「知識経済」へと移行し始めた。
にもかかわらず、多くの企業では、いまだにほとんどの時間は実務ワークに費やされている。
今日では改良の文化ではなく、変革の文化による企業運営が、可能になった。人工知能やクラウド・コンピューティング、コラボレーション技術の進展によって、既存のビジネスのサポートに必要な実務ワークが大幅に削減された。そして企業が新しく創造的なアイデアを実現し、維持管理できるようになった。
GAFAMに代表されるテックジャイアントは、新しい変革経済を実現するAI技術やその他の最先端なツールを発展させて、実務ワークを最小限にする方法を編み出してきた。これによって新たなアイデアのための余地ができ、それらのアイデアを実現できる。テックジャイアントの文化は、改良ではなく変革をサポートする。アイデアが企業内で伝わる障害となる障壁を取り去って、最良のアイデアを生かすのだ。彼らは自分のアイデアではなく、従業員たちのアイデアを実現するために働いている。そして、そのための仕組みを構築してきた。
これらの企業の変革にあふれた文化の中核には「エンジニア思考」とでも呼ぶべきものがある。エンジニア思考とは、技術重視の態度という意味ではなく、構築や創造、変革の文化を支える考え方のことだ。
ジェフ・ベゾスの変革の文化
アマゾンに属するすべての人はヒエラルキーの最上層から最下層に至るまで、誰もがアイデアを出せる。そしてベゾスはできる限りすべてを自動化することで、変革の余地をさらに増やす。
ほとんどのアマゾニアンは、ベゾスがアマゾンの変革の文化を醸成するためにつくった14項目のリーダーシップ原則を、自分自身の宗教よりも深く精神に刻み込んでいる。ベゾスのリーダーシップ原則は社内で下される判断の指針となる。
マーク・ザッカーバーグのフィードバックの文化
フェイスブックでは、いつ誰を引き止めて「君にフィードバックがあるんだ」と言っても構わない。フェイスブック社員の40%以上が、フィードバックのトレーニングを受けている。そのフィードバックには次の3つの要素がある。
- 事実を述べる
- 自分の意見を伝える
- 相手に質問をする
フェイスブックではフィードバックが相手を打ち負かすためのものではなく、相手に新しい視点を示すためのものである。フィードバックでは、問題点を議論する場合もあるし、誰かが「こんなアイデアがあるんだ。やってみようという理由はね・・・」と話すのを聞くだけのこともある。
フェイスブックでは、トレーニングに加えて、会社ぐるみのフィードバックへの取り組みがあるため、フィードバックがほとんど日常なものになっている。従業員の心に、あらゆる同僚の言葉は聞く価値があるという信念を育むことで、フェイスブックの中で新製品のアイデアが生まれるように促しているのだ。