ゼロを通して見れば無限が見える
指揮者は例外なく、全く音を出さず、高価なキャリーケースも必要としない演奏用の道具を携えている。指揮棒だ。この無音の棒切れが手にする者によってとてつもない威力を帯びる事もある。「ゼロを見れば何も見えない。ゼロを通して見れば無限が見える」。指揮棒もまさにゼロと同じで、どれだけ優雅に振ろうとそれだけではオーケストラにとって何の意味も持たない。指揮棒を通して、演奏者たちに楽曲に込められた芸術的かつ人間的偉業をそっくり見せる事ができて初めて、指揮者の本分を全うできたと言える。これはすべてのリーダーの本分であり、コンサートホールに限らず、ビジネスをはじめとするあらゆる重要な事業の指揮を執る者にとって極めて大切だ。
3つのネガティブ要素が成果を生み出す
「無知」は新たな領域を探求する意思と切り離せない関係にあり、「ギャップ」には発見されるべき新たな可能性が潜んでおり、「メインリスナー」(人々の問題意識や見解を変えるように話を聴く)は、対話の相手に自らを存分に表現してもらうための余白を生む。
自らの知識を手放し、無知を受け入れようとする姿勢を持つ事が、新たなリーダーシップという強みを手に入れる重要な第一歩となる。その一歩を思い切って踏み出すには、リーダーとしてギャップの探求という作業とメインリスナーとしてのスキルに自信を持っている事が欠かせない。
知識を手放す
予想もしなかったような新しい知識は既存の知識、意思、そしてあえて無知であろうとし、答えを求めず予測すらしようとしない姿勢を組み合わせた結果として得られるものである。
リーダーに求められているのは「探求を始める瞬間」に知識を手放す事だ。既存の知識に頼らず、探求の結果を予想しようともせず、未知の領域に飛び込む心構えが必要なのだ。予測を立てる事で、全く新しい知識を発見するチャンスをぶち壊しにしてしまう事もある。リーダーは、予想不可能なものにオープンな姿勢を持ち、過去と違う成果を引き出す事が大切である。
ギャップを恐れない
演奏の本質は、ギャップの扱いにある。ギャップを喜び、解釈し、うまく利用する。音楽の世界と同じように、ビジネスにおけるリーダーシップの役割は、無意味な空白を有意義なギャップに変える事である。愛、欲望、喪失、あるいは強烈な野心といった強い感情は、いずれも切迫した、どうにかせずにはいられないギャップの感覚を引き起こす。強く感じられるほど、ギャップは強いエネルギーを生み出す。
多種多様な創造性の決め手となるのは、ギャップを認識し探求する能力だ。ギャップとは様々な解釈を試し、それによる意味の変化を発見する機会である。ギャップがイノベーションを生み出すのは、モノと違って非物質的だからだ。ギャップは我々の心、記憶、直感、感情の中にある。現実と関わりはあるが縛られる訳ではない。
メインリスナーになる
聴衆にパートナーになってもらい、積極的に参加し、責任を持って学び、あなたが教える以上の事を学んで欲しいと思うなら、メインスピーカーという固定概念を捨て去り、メインリスナーになろう。知識を伝える事ではなく、対話を生み出す事に注力する。なぜなら、どのような相互作用があるにしても最終的な学びは個々の参加者によって異なる。相手が聞いた事を最もよく吸収し、それに基づいて自分なりの考えをまとめ、他の人々と共有するよう促す唯一の方法は、対話という手段を用いる事であるからだ。
メインリスナーは、対話が生まれ、人それぞれの価値のある学びが収穫されるための場を提供する。