左遷論 – 組織の論理、個人の心理

発刊
2016年2月24日
ページ数
229ページ
読了目安
281分
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左遷のメカニズム
左遷のメカニズムを分析し、個人はそれにどう対処すべきかを紹介している一冊。
組織の左遷の思惑と個人の心理について考察されています。

左遷とは

左遷とは「それまでよりも低い役職や地位に落とすこと。外面から見て明らかな降格ではなくても、組織の中で中枢から外れたり、閑職に就くことを含む」と規定する。

左遷、栄転、昇進は人事異動によって生じる。そもそも会社が人事評価や人事異動を行うのは、社員を1つの集団として把握し、転勤や配置転換を繰り返しながら社員の職務範囲を広げ、仕事能力の熟練を高めていくという運用が基本にある。同時にそれぞれの職場で社員の働きによる評価を積み重ねて、各社員の人事評価を長期的に確定していく事になる。

若い頃は転勤をこなしながらいろいろな職場を経験してきた社員も、年次が高くなると、過去に経験した職場に配置される事が多くなる。一定の年数を経るにつれて仕事能力の熟練にも目処がつき、会社から見た適性や評価も固まってくるからだ。その後は、能力アップや昇格よりも、安定的で効率的な組織運営のための配置に移行していく。

 

人事異動に先行する経営方針や組織の流れに注目せよ

人事異動は、昇格や降格がはっきりするタイミングでもある。同期入社のトップを切って課長職に昇進して喜ぶ人もいれば、同期の多くが管理職に登用されているのに昇格がかなわない社員もいる。50代半ばでライン職を降りる事を言い渡されたり、出向辞令に肩を落とす社員もいる。

社員はどうしても、自分の労働条件に関わる事や同期や上司、部下などの身近な人に対する人事異動だけにフォーカスしがちになる。しかし重要なのは、経営、組織を含めた大きな流れである。人事評価と定期異動に先行する経営方針や組織との関係も考慮に入れた見方が大切である。こういった人事異動を見る視野の狭さが、左遷や不本意な人事という受け止め方を呼び込んでいる面もある。

 

左遷を行うという明確な意図を持った人事異動は少ない

人事異動は単純に空いているポストに社員を配置する事だけではない。そこには諸々の目的が含まれている。そのため社員の受け止め方に幅が生まれ、不本意な人事や左遷だと判断する理由も生じる。企業が転勤を実施する目的について、重要視している点は次の通り。

①業務ニーズに合わせて人材を機動的に配置すること
②能力や適性にあった配置を行うこと
③人材育成を進めること
④組織を活性化させること
⑤昇進とキャリアアップの機会を与えること
⑥育児・介護等の生活上の要望に応えること

人事異動は、会社にとっても社員にとっても活性化の仕掛けになっている。日本の企業では、どんな仕事をするのかという点のみならず、誰と一緒に仕事をするかという点が重要である。そのため人事異動の持つ効果は大きい。会社側から見れば、組織の活性化であるが、個々の社員には働く環境を変えるという機能を担っている。

役員や上司が「左遷を行う」といった明確な意図を持った異動は多くはない。ただ、人事異動がいろいろな目的、機能を持ち合わせている事が、不本意な人事や左遷が行われたと社員が思い込む理由になっている。

 

なぜ敗者復活はないのか

左遷に遭遇しても、20代や30代であれば、リカバリーできる余地は大きい。しかし、40歳を過ぎた社員が再起する事は実際には難しい。この年齢になれば社内の評価はほぼ固まっているからだ。40代以降に再び評価を得るケースは、3点に限られる。

①過去に一緒に仕事をした先輩や同期からのヒキ
②自分の上司や先輩社員が病気や事故、不祥事等により突然姿を消す場合
③女性登用などのように対外的なアピールのために特定の対象者の評価を上げる場合

3つのケースはいずれも他人頼みで、自分の努力や能力を磨くこと、即ち自分で実現できるものではない。そういう意味で40歳以降になると、自力による敗者復活はないと言っていい。

 

左遷された場合は、どうすればいいのか

会社員は組織の枠組みの中で過ごす事が日常なので、組織内の年次、役職、経験年数などによって自分自身の位置づけを確認している。そして自分で枠組みがあると思ってしまえば、本当にその中に埋没してしまう。

左遷を会社という組織の枠組みの中だけで考えていれば、挫折や不遇だという受け止め方しかないかもしれない。しかし、枠組みを外して考えると新たな世界が開ける事がある。視点を変えてみれば、余裕のある恵まれた場所という事にもなり得る。開き直ってその余裕を自分のために十分活用する事も考えられる。組織内の立場から離れると、数多くの自己イメージを持っている事がわかる。単一のアイデンティティに限定されずに、もう1人の自分を持つ方が組織で働く苦しさや閉塞感から解放される。