美味しいものを並べていればお客様が来るという時代は終わった
この15年もの間に、ベーカリーは多様な進化を遂げてきた。規模の大小や立地、コンセプトやターゲットも様々で、お客様の幅広いニーズに応えるベーカリーが増えてきた。ただ単に「新しさ」「おいしさ」「おしゃれ」といったキーワードだけでは、お客様はもはや振り向いてはくれなくなった。
成功するために一番大切なのは、お客様の目線で常に考えているかどうか。ベーカリー業界は、まだまだ自分のこだわりを優先して、お客様のニーズをないがしろにしているところが少なくない。例えば、ランチタイムに惣菜パンではなく、ライ麦主体のドイツの食事パンを焼いているようなベーカリーが未だにある。
パン職人から独立すると、つい自分の経験の中だけでパン作りを完結させてしまいがちである。また、パン作りは得意でもパンの食べ方を知らない人が意外と多い。一生懸命パンを作っている人こそ、もっとパンを食べて、美味しい食べ方を研究してほしい。
成功するためのココロに刺さる教訓
①「売れるベーカリー」をゴールにしてはいけない「なぜベーカリーをしたいのか?」をよく考え、その軸からぶれない店作りが何より大切。そして、身の丈にあった規模からスタートさせていくのが鉄則である。儲けたいだけなら、もっと手軽に始められるものが他にもある。
②個人店こそマーケティングすべし
まずは商圏の人口分布を調べる。どのような人たちが多いのか、他にどんな店があるのか。自分のやりたいことと現実にできることに折り合いをつけていく中で、店の方向性が明確になり独自のスタイルが生まれる。
③本気の店作り、開業資金は最低一千万円
PRで一番効果的なのは、店のファサード、外観、内装に地域の人の心に残るようなデザイン性を持たせ、店舗そのものをPRに活用すること。つまり、店の外観と内装にはある程度の投資が必要である。
④ベーカリーは見た目が勝負
身なりや店全体を清潔に保つ、クリンリネスは鉄則。繁盛していない店は、エアコンのフィルターや窓ガラスが汚い。レジ周りがごちゃごちゃしている。
⑤「こんなパンを待っていた」は信じない
全体の売上に対し、上位70%を占める商品をA、71〜90%にあたる商品をB、残り10%をCとしてみる。Aの中でも1商品だけが極端に売れている場合は、お客様に早々に飽きられてしまう可能性があるので注意が必要。それらの中で2〜3品がヒットするような商品開発を行う。C商品は容赦なく改廃していく。このC商品にも「こんなパンを待っていた」と言ってくださるお客様は必ずいるがデータに従う。
⑥職人ではなく「食人」であれ
食べることにお金を費やすことが何より勉強になる。外食するときは、経営者としての目線、客としての目線、その両方を持って店に行く。職人としての作る腕も大切だが、食べる人としての感性を磨き続けることの方が重要である。
⑦いつ来ても焼きたてパンがある
ベーカリーでの感動体験を作る要素は「いつも焼きたてパンがあること」。営業時間中はオーブンをフル回転させ、店頭には常に何らかの焼きたてパンがあるようにする。つまり、一度に焼くパンの量をあえて減らし、オーブンの回転率を上げる。
⑧五感に響くワクワク感
作り手の動きを見せることで、ワクワク感の演出につなげる。視覚、嗅覚、聴覚のすべてに訴えかけ、お客様を巻き込んで臨場感ある売り場を作る。
⑨買いたくなるディスプレイ
パンを立体的、魅力的に見せていくのがコツ。パンを色々な角度からライトアップしたり、ディスプレイに高低差や奥行きを持たせたりする。
⑩やさしさが基本にある接客
どんな時でもお客様への感謝の気持ちだけは忘れない。「人へのやさしさ」が根本にあれば、良いサービスが自然とできるようになる。