ビジネスとは「人」である
この20年で企業経営の手法は急激に増え、「効率化」や「スキルの標準化」、「パフォーマンスの最適化」などの目標のもとに、企業のベストプラクティスとして定着した。「業績給」「コア・コンピタンス開発」「プロセスエンジニアリング」「マネジメントモデル」「競争戦略」などは、企業経営の確立したモデルとなっているが、それらが能書き通りの効果を発揮する証拠はほとんどない。
このようなモデルや理論はいずれも職場から人間性を奪うものであり、従業員は使い捨ての機械のように最大限まで酷使され、1人1人の個性も才能も埋もれたまま終わってしまう。
私達は経営の専門家やコンサルティングファームのせいで、ビジネスというのは論理的なものであり、すべて数字によって管理できると思い込んでいる。モデルや理論に従えば成功への道筋が示されると信じてきた。しかし、ビジネスは理屈通りにはいかない。人材なくしてビジネスは成り立たないからだ。非理性的で感情的で気まぐれな人間が理屈どおりに動くはずがない。
「戦略計画」は何の役にも立たない
戦略策定の実行における問題は、戦略策定は、今後の経済状況や、業界の変化や、競合他社の動向や、顧客のニーズを予測できる事が前提となっている点だ。しかし、そんな事がまともにできる人間はいない。将来を予測するのが仕事の世界的な経済学者にしても、リーマンショックを予測した者は皆無に等しかった。にもかかわらず、将来を予測し、将来の事業構想にしたがって計画を実行に移すのが、ビジネスのベストプラクティスとして、企業が成功するために必要な事とされている。戦略の開発および実行の現状を要約すればこうなる。
①将来を予測する
②予測に基づき、大胆なストレッチ目標を設定する
③周囲の人々を説得する。一般従業員らも同じ目標に向かって努力するように
④目標達成に向けて邁進する
⑤成功を祝う
会社が潰れるのも、従業員が職を失うのも、こんな考え方のせいなのだ。明らかに、こんなものは企業の将来を計画するための正しい方法とは言えない。問題は、人々が戦略計画=解決策だと信じてきた事にある。だが、計画自体にはほとんど価値はない。計画を立てる過程にこそ価値があるのだ。業界の動向や経済シナリオ、競合企業の強みと弱み、消費者の声などをしっかり把握する事により、洞察と知恵をもって意思決定を行う事ができる。その事をわきまえていれば、企業は様々な状況変化に応じて柔軟に対応し、大きなチャンスに気付くようになる。1つの計画に縛られてしまえば、考え方は狭くなり、計画を立てる事は考え方を広げてくれる。
戦略開発の価値は完成した紙の報告書にある訳ではない。自分達で学び発見するプロセスにこそ価値がある。目まぐるしく変化する世の中に対して的確に対応するための知恵を身につける事を目標とすれば、様々な事業機会が現れた時に、見逃さずにとらえる事ができる。ビジネスの成功は、業界の将来を予測し市場の方向性を決定づけたりする事ではなく、大きなチャンスを見逃さずにとらえる事にある。
コンサル頼みから抜け出す方法
個々の人の事を考えれば、人間は必ずしも理性に従って行動する訳ではないとわかっているのに、人間を集団としてとらえると、なぜか非理性的な部分は見えなくなり、理性的に行動するものと考えてしまう。実際、企業経営は科学ではないから「答え」などないし、「ソリューション(正解)」など存在しない。にもかかわらず経営理論は、多数の方法論やあらかじめ用意されたソリューションでできており、成功への手順を指示するのだ。
以下は新しいプログラムや取り組みが組織の役に立つかを判断する物差しである。次の4つの内1つでも該当すれば良い。
①社員同士の交流を改善する
②判断力を強化する、または考え方を広げる
③社員が生活を楽しめる環境をつくる
④顧客の生活を豊かにする
流行の戦略は意味がない
経営コンサルタントは毎年のように、ビジネスのあらゆる問題を解決するモデルや理論を開発している。しかし、その結果どうなったかといえば、新しいモデルや理論が次々に廃れていっただけだ。1つの流行が広く普及すれば、その問題点も広範囲に表れるようになり、今度はその反省点を踏まえて次の流行がつくられる。
外的要因に対応する「競争戦略」の後には、内的能力に基づく「コア・コンピタンス戦略」が登場。トップダウン型で進める「ブルーオーシャン戦略」の後には、ボトムアップで市場に対応する「適応戦略」が登場した。
各戦略はその前の戦略の欠点を補うものだが、やがてその戦略自体の欠点が浮かび上がってくる。その結果、ダイエットとリバウンドを繰り返すのと同じ悪循環に陥ってしまう。
モデルや理論に頼るのはやめること。大事なのは、みんなで腹を割って話し合う事に尽きる。対話や人間関係の改善がビジネスに利益をもたらす。