右肩下がりの業界で成長する自動車教習所
少子化や若者の車離れ・免許離れなどを背景に、いまや自動車教習所の業界は右肩下がりの時代を迎えている。ピーク時の1990年には、四輪車と二輪車を合わせた卒業生は約263万人だった。その後、減少が続き、2019年には卒業生は約154万人に減った。ピーク時から4割強の減少である。自動車教習所の中には、業績が低迷し廃業を余儀なくされているところも少しずつ増えている。
こうした中にあって、大阪府の南部、高石市にある自動車教習所「高石自動車スクール」は、2010年以降、お客様数が右肩上がりに増加している。2009年には2082人だった卒業生が2019年には3159人。それに伴い、売上も増加しており2009年には5億400万円だったのが、2019年には7億3400万円と10年間で45%増加している。
顧客のニーズを再定義する
この大きな要因となったのが「プレミアム・ハイスピード」という商品である。これは、AT車であれば最短15日、MT車であれば最短18日で免許が取得できるという商品。「早く免許を取得したい」というお客様たちのニーズに応えるために導入を決めた。
自動車教習所の繁忙期は1〜3月で、1年間の売上の大半はこの時期が占める。繁忙期のピークの2月には、お客様は3倍くらいになる。こうした超過密状態の時期に「最短15(18)日で免許が取れます」を売り文句にした商品を投入するのは、かなり無謀である。この時期は、お客様が多いため予約が取りづらく、平気で「2ヶ月の予約待ち」といったことも起こりうるからである。ただ、予約が取れない時期だからこそ、「プレミアム・ハイスピード」はパワーを持つ。
「プレミアム・ハイスピード」という商品の導入背景には、他の自動車教習所との間で起こっていた「安売り競争」があった。そこで他の学校にはない「クオリティー」を備えるため、自動車教習所に対するお客様の究極のニーズとは何かを探り始めた。
考えた末にたどり着いたのが「さっさと免許を取得させてくれて、かつ、学校に通う頻度も滞在する時間もできるだけ短くしてくれる」というもの。そもそも、お客様にとって自動車教習所は「いたくない場所」である。多くの人は「好きだから」ではなく、「必要だから」運転免許を取得すべく自動車教習所に入校する。そこで、自動車教習所がお客様に提供できる最大のサービスは、「通う頻度も滞在時間もできるだけ短くし、かつできるだけ短時間に免許を取得できるようにしてあげること」と定義し直した。
すごいカイゼン
繁忙期に「プレミアム・ハイスピード」という商品を成立させるためには、卒業に必要な予約を確実に取っていく必要がある。そこで、次の3つの「カイゼン」に取り組んだ。その結果、超短期で免許取得を実現できるようになり、「高石なら、早く免許が取れる」と口コミで広がっていった。
①予約の仕組みのカイゼン
お客様が確実に予約を取れるための仕組みとして、学校主導で予約を取っていく方法を採用した。繁忙期であれば、キャンセルすると次の予約が取りづらく、一度のキャンセルが大幅なスケジュールのズレにつながる。お客様に100%スケジュール管理を任せず、学校側が卒業までのスケジュールを組み、それが達成できるようにサポートする仕組みを採用した。
②お客様対応のカイゼン
「教習10分前なら、キャンセル料は不要」としていたサービスを廃止。お客様が自分で予約&キャンセルできる仕組みを、学校が予約する仕組みに変更し、キャンセルがしにくい仕組みにした。その結果、キャンセルによるお客様不在の「空き」の教習を減らし、稼働率が高まった。
また、お客様の不要なキャンセルをなくすための仕組みとして、「お客様係」を設置し、1人のお客様に指導員1人が担当となって、入学から卒業までケアする仕組みを採用した。
③教習内容のカイゼン
短期で免許を取得するには、運転技術も短期で向上していく必要がある。自動車は自転車と同じで、初心者の内はたくさん走れば、それだけ運転技術も伸びていく。そこで「検定コースをゆっくり走らせる」従来の無線教習から、「コースを複雑にせず、通常のスピードでできるだけ長く走ってもらう」無線教習を取り入れた。無線教習は1回につき、最大3人の指導ができるため、効率的にスケジュールを組めるようにもなった。