世界最高峰の経営教室

発刊
2020年10月15日
ページ数
320ページ
読了目安
620分
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世界トップクラスの経営学者たちが研究している理論の総集編
世界トップクラスの経営学者17人の研究内容がまとまった1冊。世界でも最先端で重要な経営理論の概略を著者がインタビューし、わかりやすく紹介されています。現在の経営において、必要な知識が網羅されており、経営における理論的なことを大まかに理解することができます。

ポーター教授のCEO論(マイケル・ポーター)

バリューチェーンを提唱した『競争優位の戦略』の刊行から35年。今、ポーター教授が最も関心を寄せているのは、企業経営者の時間の使い方だという。

CEOは大変忙しく、常に時間が足りない人たちだ。在籍3〜4年にとどまるような場合、CEOが「何に時間を割り振るか」といったタイムマネジメントに失敗している例が散見される。研究の結果として、まず言えるのは、経営戦略の立案とCEOの時間の管理は相互に作用し合う関係にあるということ。戦略の立案には時間が必要であり、戦略は組織をまとめる上で重要な役割を果たしている。CEOの時間の使い方の成否はリーダーシップそのものにつながる。

CEOは自分の時間に対して、とてつもなく多くの要求を受けている。そしてCEOの時間管理では、CEOに直接報告する人物が果たす役割が重要だということがわかってきた。こうした立場の人物が優秀であれば、CEOは自らの時間をより多く確保できるからだ。CEOにとって、直接報告する人物は、目の前の仕事ができるというだけでは十分ではない。この立場の人物は「CEOを助けるため」というより、「CEOが目指す場所へ実際に連れていくために存在している」と言える。CEOはこうした有能な人物を直接の報告者として選んでおく必要がある。

 

CEO自身がパーソナルなアジェンダを設定することは、時間の使い方という面からも欠かせない。「これから3〜4ヶ月の間に何をすべきなのか」を具体的に3〜6個ほどにまとめて書き出すのだ。CEO自身に明確なアジェンダがあるからこそ、部下のアジェンダも明確になる。逆にCEOのアジェンダが不明確ならば、周りの部下も何がアジェンダかわからず、結果CEOに様々な要求をし、その分、CEOの時間が無駄になる。

 

CEOの時間の使い方について、調査では対面のやり取りが61%、電話や文書への返信作成が15%、電子メールへの対応が24%を占めた。CEOが関わる電子メールは、短く内容も重要でないものが大半であり、大多数に関わる必要がないことがわかった。会議の時間短縮も大切なテーマだ。経営戦略を社員に徹底することが、CEOの時間が多く費やされないために欠かせない要素となる。

 

ダイナミック・ケーパビリティ(デビッド・ティース)

ダイナミック・ケーパビリティとは「組織とその経営者が、急速な変化に対応するために、内外の知見を統合し、構築し、組み合わせ直す能力」のことだ。市場で事業機会や脅威を察知(センシング)し、価値創造のための人材や資産を動かして競争優位を獲得(シージング)、経営手法を日々改善しながら定期的に主要な戦略を変容(トランスフォーミング)させていくのが、ダイナミック・ケーパビリティの核だ。それを実現するための要が「分権化」と「自己組織化」である。

 

その点で最も注目してきた企業が、中国の家電メーカー、ハイアールだ。ハイアールには、ダイナミック・ケーパビリティの発揮を促進する組織構造がある。ハイアールにはダイナミック・ケーパビリティに必要な3つの思想が埋め込まれている。

  • 開発に顧客を巻き込み、鋭いセンシングを実現している
  • 機会を察知したら直ちにシージング。数多くいる社内起業家とハイアールグループCEOのリーダーシップで俊敏に発見した市場を取りに行く
  • 必要ならば組織や戦略をトランスフォーミングする

 

分権化と自己組織化によって、センシング・シージング・トランスフォーミングが効率的に可能になり、その結果、迅速さとチーム力、起業家的志向、そして高い業績を組織にもたらす。ハイアールはシリコンバレー企業以上に、組織の上下関係が緩く、フラットになっている。従業員が個人的に事業を立ち上げることができるため「マイクロ起業家モデル」とも呼ばれる。大企業の内部に、数多くのスタートアップが存在するのだ。これによって、全従業員を経営に巻き込み、イノベーションを促進している。

 

ダイナミック・ケーパビリティ論の本質は、ドラッカーの思想を形式知化した実用的なシステム論であるということだ。ドラッカーは言葉を残すことしかできなかったため、その思想の含意を網羅的に理解するのは本人以外は難しい。そこで、ドラッカー語録を理論にした。誰もが効率的に実践可能であり、経営者は今後、ドラッカーの組織論やリーダーシップ論を幅広く実践することができるようになる。