「ものづくりのホンダ」の考え方
ホンダは社内のイノベーションと個人主義を第一に考え、何よりも優先させる。歴代のホンダ社長は技術系で、明文化されている訳ではないが、それが本田宗一郎以来変わる事のない伝統だ。エンジニアによる経営は、ホンダという会社の個性、とりわけエンジニアのものづくりに徹底的にこだわる姿勢と一致する。彼らは、設計、開発、戦略、または製造のどれについても、最初の選択肢に辿り着いたのと同じ調査分析と知的探究心で、別の選択肢を試し続け、個別に意思決定を行っていく。ホンダでは、同じ概念を繰り返し使って成功するより、一見確かなアイデアや知識を批判したりすること、つまり従来の常識を覆す事に価値が置かれる。
ホンダの企業文化は、宗一郎が度々口にした「成功は失敗と反省の繰り返しによってのみ達成できる。成功とは、失敗と呼ばれる99%の仕事から生まれる、残り1%の仕事だ」に表されている。
ホンダとトヨタの違い
ホンダとトヨタの一番の違いは、本社と世界中の工場やオフィスとの関係だ。トヨタは円滑に機能している時には、世界の従業員に、現場で自ら考え、問題の解決策を提案するように促すものの、究極の権限は日本にある。現地での決定は指揮系統を遡り、本社にある役員室の承認を得なければならない。対照的に、ホンダは分散型の組織であり、各施設での独立した意思決定が強みになっている。
トヨタが永久にリーン方式と結びついているのに対し、ホンダは明らかに自社を違った目で見ている。常識に対する疑問、リスクを怖れない事と失敗を調べる事から生じるイノベーション、開かれたコミュニケーション、現場でのコントロール、世界中の拠点の橋渡しとなる知識の蓄積。こうした特徴を備えた、起業家精神溢れる中小企業のような大手メーカーだと認識している。
ホンダの三原則
①パラドックスを受け入れるホンダは対立する力やアイデアをうまく活用して、戦略上、業務上の選択を行うが、パラドックスと付き合う能力を支えているのが、組織の自発性である。ホンダでは、一人ひとりの意見や提案は平等だ。賛成しても、愚かだと思っても構わないが、役職や地位がその判断基準になってはいけない。形式にとらわれない予定外の話し合いはホンダにとって不可欠で、至るところで行われている。この話し合いは「ワイガヤ」と呼ばれている。ワイガヤの目的は、様々な背景を持つプロの集団から、最も包括的でダイナミックで、独創的なアイデアを抽出する事にある。
②三現主義
三現主義とは「現場」に行って、「現物」を自分の目で見て、「現実」を知った上で判断する事だ。三現主義は元々ホンダが生み出したものではないが、ホンダは類を見ないほどそれを活用している。三現主義の中で最も重視するのは「現場」に行く事だ。現場に行かずに考えを示したり、意見を述べたりする者はいない。
③個性を尊重する
アイデアや手法について圧倒的なイノベーションが生み出されるのは、構造化されたシステムやルールの厳しい組織モデルに馴染まない社員がいればこそだ、とホンダは考える。どれほど事前に精緻な計画を立てても、彼らはそういう組織でうまくやっていけない。パラドックスの中でこそ生き生きと働ける社員。言われなくても常識的な方法に疑問を抱き、別の方法を考える社員だ。
そのため、ホンダが求めるのは、型にはまらない進路を見出し、少々常識はずれの人生を歩むタイプだ。かつて宗一郎は、採用するのに理想的な人物はと訊かれて「苦労人」がいいと答えている。