遺伝子の発現は変化する
メンデルの遺伝法則によって、遺伝子は一対であり、片方の遺伝子がもう片方の遺伝子より優性であれば、その形質がもたらされる、と考えられてきた。そして、それに対応して一対の遺伝子の両方が劣性遺伝子であると、一般的でない青い瞳や「ヒッチハイカーの親指」がもたらされる、と考えられた。しかし、遺伝は常にそのような形で生じない。メンデルは重大なことを見過ごしてしまった。それは「表現度の差」である。これこそが、同じ遺伝子が非常に異なる方法で人々の人生に影響を与えかねない理由である。同じ遺伝子が、異なる人に対しても常に同じように作用するとは限らない。
なぜ表現度には差があるのか。その答えは、遺伝子は僕らの人生で白か黒かの反応を見せるわけではないことにある。遺伝子は不動であるかのように見えても、遺伝子が発現する方法は、不動どころではない。今日では、表現度の差を考慮しながらフルカラーで物事を見ることの重要さについて、理解が進みはじめている。
思考も遺伝子に影響を与える
人生の要求に応じて遺伝子は自らを表現する方法を変える。そのために必要な微量の生物学的エネルギーを僕らの体は生み出している。そして、僕らの細胞も、それまで成されてきたこと、あらゆる瞬間に成されていることによって導かれて発現している。
思考もまた、常に遺伝子に影響を与え続ける。遺伝子は細胞機構をあなたが抱く期待と実際の経験に合わせるため、長い年月をかけて変わっていかなければならない。記憶を築き、感情を抱き、将来を予測する。それらはすべて、あらゆる細胞内にコードされる。
遺伝子発現は生物が生き残るためのメカニズムである
一般的に僕らの身体は、必要なものを必要な時に必要な分だけ生成し、在庫を最小限にとどめようとする。それを可能にするのが遺伝子発現だ。酵素の生成も生物学的に高くつく。そのコストを削減するために、僕らの酵素は「誘導」される。つまり、ある種の酵素が必要になると身体は要請にすぐに反応し、多くの資源を呼び集めて酵素を生成する。ある酵素用の遺伝子を受け継いでいても、身体が必ずしもそれを使うとは限らない。
生物学的世界は、ほぼ100%にわたって、生活費の無駄をなくす方法で駆動されている。それは絶対に必要なことだ。なぜなら、すべてのエネルギーを使いもしない酵素に費やしてしまったら、脳の可塑性や血流といった常時行われている日々の出来事に使うべき貴重な資源が足りなくなってしまうからだ。
細胞には驚くほど適応力がある。僕らが日々行うことは、遺伝子が細胞にやらせる物事に大きな違いを生み出す。
「遺伝子発現」は、植物、昆虫、動物のみならずヒトでさえ、生きる上で出合う荒波をくぐり抜けるために採用しているサバイバル戦略だ。そして、それらすべてに共通する鍵は、柔軟性である。今見出しはじめているのは、遺伝子はより大きな柔軟性を持つネットワークの一部であるということだ。