個が立つ組織 平和酒造4代目が考える幸福度倍増の低成長モデル

発刊
2019年12月23日
ページ数
208ページ
読了目安
199分
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縮小する日本酒市場で生き残るためのビジネスモデル
和歌山県の酒蔵・平和酒造の4代目が、縮小する日本酒市場で生き残る経営戦略と組織づくりについて紹介している一冊。

あえて低成長を選ぶ酒造会社

和歌山県にある平和酒造は、社員17人の小さな会社であり4代目となる。2004年から15年間で売上は2倍強の12億円に増加した。数字だけを見れば低成長企業である。

日本酒業界は、1972年にピークを迎え、以降50年近くの間に出荷量が3割以下となった。長期縮小傾向にある日本酒業界の中では、平和酒造は高成長と言える。

平和酒造は、この15年、数々のヒット作とチャレンジングなトピックに恵まれた。2005年に発売した梅酒「鶴梅」がヒット商品となり、2008年に出した日本酒「紀土(KID)」は、国内外の数々の日本酒コンテストで評価を得ている。元々売上規模が小さいこともあり、この2つの銘柄の売上を伸ばせば売上は5倍になっていた可能性もあるが、あえて成長を抑えた。

自社の強みで勝負する

人口が大幅に減少し、今後日本酒の消費量がさらに減ることを考えると、大量生産の付加価値商品で売上を伸ばすには限界がある。これまでのような営業スタイルをとっていたら、平和酒造に20年、30年先はない。

会社の個性を掘り下げ、高付加価値の自社ブランドの開発が必要だ。平和酒造の強みはどこか。得意先や店に評価を聞いたところ、どこに行っても「おいしい」と話題に上がったのが梅酒だった。和歌山県は全国の梅の50%以上のシェアを誇り、梅の産地として名高い。そこで自社ブランドの高品質な梅酒をつくった。当時は県内でリキュールをつくれるメーカーは少なかった。競合が少なく、自分たちが勝てる可能性が高いところから始めた。

日本にあるすべての酒蔵がつくり出す酒には、明確な個性や特徴がある。ところが外から見ればどこも似たような印象になっている。銘柄ごとに味も香りも異なり、バリエーションが楽しめるのが日本酒の魅力だが、消費者にうまく伝えられていない。結果、業界全体が右肩下がりになっている。最初に考えたのは、この業界に埋もれることなくエッジを立てることだった。

縮小市場で成長するビジネスモデル

酒は一度飲んで評価を得られなければ、二度と振り返ってもらえない。ブランドという意味でも信頼が非常に大切だ。だからこそ、本当に消費者がおいしいと感じるものだけを売らなければならない。

そのためには、得意先や消費者に対して積極的に営業をかけて売上を伸ばすよりも、「長期的な視野でおいしい酒をつくる」というミッションを掲げ、まずそこに向かって一目散に努力していくことを選んだ方がいい。これは高成長を狙う大企業の選択肢にはない中小企業ならではの道ではないか。

「鶴梅」や「紀土」の発売に際しては、流通経路の見直しが成功要因の1つになっている。平和酒造はかつて、パック酒の製造をメインとしており、多くの酒蔵と同様、卸、小売店、消費者という経路で商品を販売していた。卸を通すことで小売店での取扱いが増え、比例して販売本数も伸びる。だが反面、売上を増やすための厳しい価格競争に常時さらされていた。

「鶴梅」や「紀土」は、パック酒のように大量生産を目指す商品ではない。そこで卸を通さずに小売店と直接取引し、さらに小売店を1つの地域で1店舗に限定することにした。評判の良い小売店にコツコツとアプローチした。

日本酒業界のように、右肩下がりの市場においては大量生産・大量消費時代の施策は役に立たない。必要なのは短期的な売上を伸ばすことではなく、商品の価値を理解した顧客に、買い続けてもらうことだ。長く愛される商品をつくるためには、メーカーと小売店の相互の繁栄と持続性に配慮したビジネスモデルが不可欠である。