味の素のブランド戦略
味の素はブランドを「商品の価値を顧客に伝える絆であり、顧客への一貫した意思表示である」と考え続けてきた。また、「時間をかけてじっくり育てるもの」との考えを代々引き継いできた。味の素がブランドに与えている役割は次の2つ。
①顧客からの信頼を得る
「信頼」とは単に企業が発信する品質の高さや高級感を打ち出す行為ではない。他社製品と「違い」のある価値を商品に込め、それによってニーズを満たし、顧客の共感を得ることと考えている。
②最終的にファンになってもらう
競合によって「違い」に気づかれ、商品がコモディティ化しないようにするために「ファンになってもらう」ことが大切になる。大勢いる顧客ではなく、各々の顧客に向かって「違い」を持ち続けられるように努力する。その結果、共感が積み重なって、共鳴が生まれる。
味の素のブランド戦略は、憧れを持たれるような際立った違いを持たせるのではなく、「細かな違いの積み重ね」を繰り返している。その違いを「信頼」へと昇華させ、やがて「共感」「共鳴」を通じてファンを育てていく。
「信頼」と「ファンになってもらう」という関係を築く上で重要になってくるのが、商品の「顔」である。顧客は商品に付けられた「顔」を頼りに、店頭で「これは信頼できる商品だ」「これは好きになった商品だ」と感じ取る。この顔を競合他社に真似されることを防ぐのが「商標登録」である。例えば「ほんだし」や「Cook Do」といった名称を特許庁に登録することで、味の素以外の企業が同じ名称を使えないように、法的な保護を受けることができる。
そして、ブランドを強化することで、売上と利益に持続性が生まれ、結果として収益基盤を安定させることができる。
顧客のニーズを満たす「違い」を商品に込める
参入障壁が高い事業や、別のブランドへの乗り換える手間が高い事業では、先行者利益の効果がより強く働き、強いブランドが築かれやすくなる。食品の場合、一度「おいしかった」という快い記憶が残ると、その商品は長く心に刻まれる。そのため、後発が自社のブランドにスイッチさせるには、相応の努力が求められる。
味の素がブランドとして持っている商品の多くは、「味の素」「アミノバイタル」以外、2番手以降に発売したものである。後発の立場から、ブランドを最強の存在へと育てる道を歩んできた。
- ほんだし:かつお風味調味料を粉末ではなく顆粒して香りを閉じ込める方法を開発。品質の改良を継続。
- ピュアセレクト:キューピーのマヨネーズと違う酸っぱさを控えたマイルドな味に仕上げ、国産新鮮卵のみ使用。
顧客から「私の悩みを解決してくれた」「私のうちに秘めた希望を満たしてくれた」と思ってもらった時に、信頼が醸成され、ファンになってもらう土壌が生まれる。大切なのは、たとえ小さくても、顧客のニーズを満たす「違い」のある価値を商品に込めること、そして「違い」を磨き続けることである。
企業やブランドの価値観を共有する
ブランドづくりには「攻め」と「守り」がある。商標は、築いたブランドが他社に模倣されることから守るためのもの。「守り」はブランド価値の維持において重要な役割を担うが、それだけではファンは生まれない。他社にない「違い」を生み出し、顧客の心を動かす「攻め」が必要になる。
「攻め」とは、顧客から「これが欲しい」「他のものには代え難い」と思ってもらう「選んでもらう理由」をつくることである。他社に真似できない技術は、強力な攻めの武器になるが、特別な技術がなくても、顧客の悩みや気持ちに寄り添うことで、強い「攻め」になることもある。
- 企業やブランドとつながっている実感
- ブランドを応援したくなる姿勢やストーリー
企業やブランドとつながっている実感は、その企業やブランドが発信する価値観を共有することで成り立つ。味の素も価値観の共有を生み出す資産を生かして、顧客に愛される商品を生み出している。その代表例が、ブランドカラーである赤色で描かれたパンダのキャラクター「アジパンダ」である。「アジパンダ」は、うま味調味料「味の素」を料理に振りかける「シェーカー瓶」に描かれている。
「アジパンダ瓶」が長く支持されている背景には、味の素という企業が創業以来大切にしてきた価値観がある。120年程前にうま味の正体を突き止め、「味の素」誕生の礎を築いた池田菊苗博士の「粗末な食事でも、栄養に満ちたおいしい料理にしたい」という思いは、アジパンダの夢にもつながる。
今の日本では栄養状態こそ改善されているが、家庭で料理を作る人が「よりおいしくしたい」と考える姿勢は、今も昔も変わらない。シェーカー瓶に描かれた赤いパンダは、味の素が創業以来大切にしてきた「料理をおいしくする工夫」という考えをわかりやすく表したデザインであり、ブランド「味の素」の特徴を象徴する存在になっている。