経営に資する人事制度

発刊
2026年7月23日
ページ数
536ページ
読了目安
1013分
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推薦者

本当に機能する人事制度を設計するために必要なこと
ミッション・ビジョン・バリュー、OKR、1on1など、数々の人事制度や施策を導入しても、多くの企業の現場では制度が機能しないという問題を抱えている。

そもそも人事制度を設計する時には何を考えなければならないのか。根本的な人事の役割を解説しながら、現在求められる人事プロフェッショナルのあり方や制度設計が詳しく書かれています。
うまくいった企業の事例や様々な人事の本が乱立する中で、人事制度のあるべき姿を振り返り、経営における人事の役割を理解できる内容になっています。

事業の理解から人事制度設計は始まる

現場で機能していない人事制度の根本的な原因は、制度そのものの出来栄えではなく、そもそも「自社のビジネスモデルや事業フェーズに合致していない人事制度を設計している」という致命的なミスマッチから生じている。

 

人事制度とは単なる報酬決定の仕組みではない。「どうやって利益を上げ、社会に価値を提供するのか」というビジネスモデルにとって「あるべき姿」を従業員の行動に翻訳し、発揮されるようにするためのシステムである。そのため、ビジネスモデルが異なれば、当然人事制度の設計思想も異なるものになる。

流行りの人事制度の形を模倣することが重要ではなく、「ビジネスを成功させること」を起点にして設計するべきである。

  • 労働集約型:効率性と再現性を生み出すことを軸に設計
  • 知識集約型:クリエイティビティや試行錯誤のプロセスを許容する余白が必要
  • ストック型:長期的な顧客維持を重視
  • フロー型:短期的な突破力を評価

世の中に溢れている「人事制度のパッケージ」は、このようなビジネスモデルごとの差異を削ぎ落としており、時間とコストをかけて制度運用しても、事業を加速させる効果には繋がらない。

 

人事のプロフェッショナルは、ビジネスを知ることで事業を伸ばすために必要な要素を洗い出し、その要素を実現するために組織設計やインセンティブなどの仕組みを用意し、導入した後には適切に活用されているか、組織や事業に実際にインパクトを与えることができているかを検証しながら模索を繰り返す。

 

ミッション・ビジョン・バリューから始めると失敗する

多くの企業は、独自性のある自分たちらしいミッション・ビジョン・バリューを作り、それに連動した人事制度を作り上げていく。しかし、コンサルタントや経験の浅い人事がこうしたプロセスで制度設計を進めた場合、ビジョンとバリューを作る際に、無意識の内に「ビジネスの現実」から切り離された「願望ベース」の絵を描いてしまう。

 

本来、人事制度とは「事業を勝たせるためのエンジン」でなくてはならない。そのため「どうやって事業を勝たせるのか」という経営の視点を持つことが必要だが、いきなりビジョンとバリューの策定からスタートしまっているケースが多い。そこに経営の根拠が紐づいていない場合、「お金がたくさんもらえたら嬉しい」というような、否定しづらいだけの「願望」に過ぎないものが出来上がってしまう。

このような実態からかけ離れたビジョンやバリューは、現場の従業員からは「実態の伴わないお題目」にしか見えず、人事制度が事業を勝たせるエンジンとして機能せず、事業とは直接関係のない評価のための生産性のない作業を生み出す枷となる。

 

現場で機能させるための人事制度のあり方

人事制度は、会社が従業員に対して「何を期待し、どうやってパフォーマンスを見極め、どのように報いるか」を定めた仕組みである。そのため次の3つが存在している。

  • 等級制度:期待される役割やパフォーマンスの定義をするもの
  • 評価制度:役割やパフォーマンスの実態を計測し、引き出すもの
  • 報酬制度:仕事に対して公正に報いるためのもの

 

但し、これらを作成しさえすれば良い人事制度が実現する訳ではない。現場で機能する人事制度を実現するためには、マネージャーとメンバーが実績を楽に記録できるようにシートの利便性を高めたり、評価者がより適切にパフォーマンスを引き出せるような項目を追加・削除するなど、本来目的としていた組織の状態を実現するために運用を通じて「常にアップデートし続ける必要がある」という観点に立たなくてはならない。重要なことは組織にとって「重要な行動が増えているのか」「離職者が減ったのか」といった行動変容を計測することである。

 

よく機能している人事制度は、組織を「事業戦略に紐づいた目指すべき姿」に変化させ続けるために、日常業務に入り込んだ「ガイドライン」として活用される。人事制度が目指すべきあり方は、通常業務の中に溶け込み、従業員が自然と制度の設計者が意図した動きをとってしまうような制度である。

 

人事制度が目指すべき方向性

現在の世の中は、競争相手がグローバルになり、情報がオープンになり、スピードが加速し、人材も不足している。そういった中で、人事のプロフェッショナルが作るべきは、以下のサイクルを回すためのシステムを構築することである。

  1. イネーブルメント:従業員がパフォーマンスを発揮できる環境や仕組み、プロセスを整備する
  2. 事業成長:全員がアラインしてパフォーマンスを発揮できれば、事業は伸びる
  3. キャリア価値向上:パフォーマンスを発揮するために能力を向上させ、能力が向上すると等級やポジションが向上する
  4. 収益還元:事業が伸びた収益を、納得感のある報酬で報いる

 

「誰もが勝者になるサイクル」を設計し、機能させることが現在の人事プロフェッショナルに求められる役割である。