顧客は常に正しいとは限らない
顧客中心主義とは、顧客に親切にすることではない。企業の製品やサービスを自社にとって最も価値の高い顧客のニーズや要望に根本的に合致させるための戦略である。この戦略には、長期的な利益の向上という明確な目標がある。
すべてのお客様が平等に扱われるべきではない。すべてのお客様が自社の最高のサービスを受けるに値する訳ではない。顧客が常に正しい訳ではない。なぜなら、顧客中心主義の世界では「良い顧客」と、そうでない「それ以外の顧客」が存在するからである。「それ以外の顧客」であっても無視すべきではない。しかし「良い顧客」にもっと時間を割くようにすれば、より有益である。彼らこそが、会社の長期的な収益性を左右する鍵を握る。
顧客中心主義とは、最も価値の高い顧客を特定し、彼らから可能な限り多くの収益を引き出し、さらに彼らと同じような顧客を新しく見つけるためにあらゆる努力を尽くすことである。こうした顧客は、競合他社に対する戦略的な優位性をもたらす。
製品中心主義の危機
ゲームのルールは変わり、今日の超競争的なビジネス環境において消費者はかつてないほどの力を握っている。そのため、製品中心のモデルに対して寛容さを失い、顧客中心のモデルをより強く求めるようになっている。その主な原因は4つ。
- テクノロジーの進歩と新技術が創出、模倣されるスピード
- グローバリゼーションと、それに伴って失われた地理的優位性
- 規制緩和と、それが伝統的に安定した産業に与えた衝撃
- 消費者の影響力の増大と、望むものを望むときに望む相手から得られるようになった彼らの新たな能力
過去1世紀の大半において、製品中心の優良企業は、本質的に有利な立場で事業を展開していた。製品に関する専門知識こそが、彼らに固有の戦略的優位性をもたらしていた。優れた技術を有していれば、市場シェアはほぼ安泰だった。しかし、現代ではこれらの優位性はもはや存在しない。
しかも、今日はデータ爆発によって、製品中心モデルは危機に瀕している。顧客データはかつてないほど入手が容易になり、これを活用しなければ、競合他社が活用するだけなのである。
顧客中心主義への課題
顧客中心主義を実践している企業はアマゾン、IBM、テスコ、ネットフリックスなど、ごく少数の賢明な企業に限られている。なぜなら、顧客中心主義を実践するにあたって、企業は組織設計、業績評価指標、従業員やディストリビューターの体制まで変革し、その長期的な構築と提供のプロセスに集中する固い意思と能力が求められるからである。特に顧客中心主義は、従来の製品中心モデルとは劇的に異なり、衝突することが明らかである。
顧客中心主義が、抜本的な組織改革を必要とする根本的な理由が、すべての顧客が同じ訳ではなく、平等に扱われることでもないという考え方である。顧客中心主義では、重要な顧客、収益性の高い顧客、つまり「正しい顧客」を見つけ出すことが求められる。一方、製品中心の世界では「正しい顧客」など存在せず、顧客は顔の見えない集団であって、製品に群がってくる存在に過ぎない。
顧客は1人1人異なる。顧客中心の企業は、顧客間の多様性をしっかりと認識する。多様性こそが機会をもたらしてくれると理解しているからである。そして、一部の特定の顧客がその他の顧客より重要であることを理解している。
自分たちにとって正しい、適切な顧客を特定できたら、次は顧客から情報を収集する。彼らが何を望み、何を必要とし、今後何を要求するかを明らかにする。それがわかったら、そうした特性を有する顧客を新規で獲得する方法を見出す。そして、これらの理念を実現できるように組織の再構築を図らなければならない。
顧客中心主義は長期的な利益をもたらす
顧客中心主義を用いれば、企業は3つの領域において卓越性を発揮することができるようになる。
- 顧客獲得:新規顧客を開拓すべき領域を的確に把握できるようになる
- 顧客維持:優良顧客との関係が長く続き、より低いコストでその関係を維持することができるようになる
- 顧客開発:顧客が特定の製品やサービスを購入する頻度が高まり、クロスセル、アップセルで多様な販売機会が得られる
顧客中心主義を用いれば、最優良顧客からの収益が大きく増加する。そうした顧客は会社の良さを潜在的な新規顧客に口コミで広めてくれる。そして、長期的に利益が生み出される。