教えるよりも導く
指導者は、選手に行動に関する指示をしてしまいがちで、そうした指示はティーチングによって「教える」ことが必要である。一方、最終的に選手自身で自分を高め続けていくように「導く」ためには、コーチングによって指導するしかない。どの方向に、どうやって、いつまでに「導く」のかは答えがない。試行錯誤を繰り返しながら、組織のリーダーが様々なアプローチでメンバーに関わり、自覚と自律を促そうとする以外にない。
指導者は、ティーチングによって、自身が持っている知識や経験を選手に教えたくなるものだが、それは選手を「型」にはめてしまう危険性をはらむ。「型」すらない選手に対しては、ある程度「型」を教え込む意義はあるが、「型」ができあがることそのものが目的になると、それ以上のものが生まれなくなる。
大学4年間で大きく成長する選手に共通点を見出すとしたら、大きく2つある。
①根拠のない自信を持っている
多少の困難も苦にせず、「すべてはこれからの成功のために必要なことだった」と解釈し、どんどん突き進んでいくようなマインドを持っている。自分は成功すると根拠のない自信を持っている。
②自分のリミッターを外せる
本気で成長するためには周囲から見たら、狂ったようにやらなければならない時がある。正解がわからない中でも目の前のことに必死になる能力は、現代社会に置いて最も苦手な領域になっている。「正解を創り出していく」作業というのは、受験に向かう準備の中では高まらない。
「自分史上最高」を目指し、自律的に成長してもらうには「教える」というよりも、自らつかみ取っていく経験をどれだけさせられるのかがカギになる。
セルフマネジメントさせる
メンバーの主体性を引き出し、思考を可視化させるために、毎年シーズンの初めに「セルフマネジメントシート」と呼ぶ書類の提出を求めている。そのシートに、今の自分の課題は何か、その課題の克服のためにいつから何をすべきか、といったことを記入させる。自分自身の現状を振り返り、何をどう改善していくのかを考えさせる。
- 理想:なりたい自分/これからの自分
- 現実:今の自分/他者から見た自分
- 課題:やるべきこと/やった方がいいと考えていること
- 方法:いつから/何を/どのように/いつまでに
- 過去の自分に投げかける言葉
- 今年の自分が大切にする言葉
シートの提出にあたっては、あくまで「自分自身に宣言する」「自分への決意表明」として書いて欲しいということを伝える。
セルフマネジメントシートには、次の3つの狙いがある。
①自分を振り返る時間をつくる
現代社会は情報が氾濫していて、学生たちにとっては選択肢が多く、何を選ぶことが自分らしく生きていくことにつながるのか、なかなか決められない状況にある。無数の情報から、どれだけ「捨てられるか」がカギである。大学4年間を通じて、自分で成長していける学生は、自身を正しく捉え、どうしていくべきかについて論理的に書くことができている。
②自立・自律した選手、チームになる
人は「やらなければいけない」という思考面だけではなかなか動き出せないし、結果的に変わっていけない。具体的な行動目標も記入させ、やると決めてやり切った者だけがつかめる世界があることを伝える。「やる」ことが当たり前となった個人が集まった集団では「やらない」者がダサいという評価になっていく。
③選手のことを知る
メンバーとの関係性を深めるためのツールにする。部員が200名ともなると、1人1人が何を考え、どうなろうとしていて、何を求めているのかを知ることは容易ではない。シートの全員分に目を通し、コピーを手元に置いて、メンバーとの意思疎通を図る。
「セルフマネジメントシート」で選手に求めているのは、現状を分析し、未来を定義し、そのギャップを埋めるための行動を自分で決める力である。この思考プロセスを高いレベルで実践していたのが三苫薫選手だった。彼の本質は「圧倒的な自律」にある。最初から外に答えを求めるのではなく、自分が自身の成長を誰よりも信じている上で、自分の力で自分を変えていくというマインドを持ち続けられるかどうか。三苫選手はそういった強い信念を持ち合わせた上で、科学的な方法論についても学び、自分を「改善し続ける力」を身につけた。