ティール組織の実現
ネットプロテクションズには、いわゆる「管理職」は存在しない。内部情報はコンプライアンスギリギリのところまで全社員に公開されている。すべての人は、周囲の社員から人事評価を受け、社長も例外ではない。そして、全社員は、会社で何をしたいのかだけでなく、自らの人生で何をしたいのか、どんな自分でありたいのかを表明し、共有している。その上で、すべての社員が自走し、お互いに助け合っている。
ネットプロテクションズは、対外的に「自律・分散・協調に基づくティール型組織の実現を目指している」と自称している。「ティール組織」とは、上司が存在せず、また必要ともせず、働く人それぞれが、自分の働く目的と合う企業において、指示されることも強要されることもなく、ありのままの自分で主体的に働くモデルである。
ティール型組織への移行
いきなりティール型組織になったわけではない。まずは権限委譲できる人材がいなければならない。ある時点から、業務遂行能力だけでなく、マネジメントを任せることを考えながら採用をするようにしたが、スムーズにいかなかった。個人としては高い能力を持っている人でも、マネジメントスキルは別で、一旦委譲しても、うまくいかなければ再び権限を取りあげなければならない。一方、うまくマネジメントをし始めてくれても、管理職は偉いのだと振る舞い始める人が出てきて、派閥化が起こった。
これらの経験を経て、組織を運営する際の要素として「嫉妬心をいかに防ぐか」「承認欲求が強すぎる人を採らない」ことが、非常にクリティカルなテーマなのではないかという考えを抱くようになった。
では、どんな組織にしていかなければならないのか。そのごく基本的な考え方として、組織風土は「いいもの」でなければならないという確信を抱くに至った。頭の中では、大学時代に幹部を務めていたテニスサークルの思い出につながった。テニスではなく仕事でも、笑顔で明るくしていた方が成果が出やすいし、互いの信頼と成長につながる。
まず、経営者として、社員にどうあって欲しいと望むのか、考えをまとめ、言語化、文章化し、共有していく過程が欠かせない。権限委譲とセットで、誰もが十分な判断基準として使える明文化されたものを作る必要性があった。
現在のネットプロテクションズは、MVVとして以下を掲げている。
- ミッション:つぎのアタリマエをつくる
- ビジョン:ひとの可能性をひらく
- バリュー:本質を探り、変化し続ける
この形になるまでには7年ほどの時間がかかっていて、しかも当時の全社員参加による遠慮一切なしの大激論、あるいは全員が押し黙ったまま数時間何も進まなくなるような時間を経てつくり上げていった。
MVVの内、最も早く原型ができあがったのはバリューにあたる「5つの価値観」である。ネットプロテクションズはどんな価値観を重視しているのか、頭の中を文章化したもので、現在まで大きく変わっていない。
- 本質を考える:思考の枠組みは限界まで広げる
- 自分を磨く:利他の志を持って本気で成長する
- 力を合わせる:目的のために、敬意を持ちながら本気でぶつかり合う
- 誠実に向き合う:楽な道に逃げない、王道を歩む
- 最高にこだわる:ビジネスのプロフェッショナルとして成果を挙げる
「5つの価値観」を兼ね備えた有望・有能な人同士が集まれば、どんな業務であっても、統合的に動ける組織として規定できた。いわば、これがネットプロテクションズにおける「憲法」で、これが完成した時点でほぼティール型組織になることが決まったと言える。
MVVのもとでは上下関係に頼らずに真摯に対処しなければ「歪んでいる」と指を刺されることになった。同時にこの頃から、お互いを人として尊重し、各自の思い、志を尊重しつつ、最大限ワクワクしながら仕事をしようという機運は明らかに盛り上がっていった。
ティール型組織を発展させる人事評価制度
ティール型組織へと向かい始めてから、制度として確立したのが「Natura」である。これは、社員の間での競争意識を排除し、心理的安全性を醸成することで、社員がさらに成長し、価値を発揮できることを期待したものである。社員同士は、協力しながらビジネスを創造していくことを大切にし、人事、報酬制度もそのために設計した。
「Natura」は、以下の5つによって構成されている。
- マネージャー役職の廃止:全員が経営者的、個人事業主的に動き、戦略レベルから全員で議論を行う
- 流動的な「カタリスト」の役割:情報、人材、予算の割り振りなどを采配する役割を置く
- バンド制(6段階のグレード)の導入:社員の職務グレードと給与の額を定め、誰がどのバンドにいるかを公開
- ディベロップメント・サポート面談:半期ごとに2度、キャリアを含めた成長支援の相談
- 360度評価による昇格/昇給の決定