キャリアオーナーシップの教科書 自律と支援のマネジメント実践

発刊
2025年9月30日
ページ数
336ページ
読了目安
387分
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主体的な社員を育成するための環境整備設計
これまでの企業主導のキャリア設計ではなく、働く側が主体的にキャリアに取り組むための環境づくりが不可欠な時代になっている。

企業が個人のキャリアを支援するための、制度設計から文化醸成まで、人事戦略としてのキャリアオーナーシップを実現させるために必要な考え方と方法が紹介されています。
人材不足などの課題を抱える多くの企業にとって、今後必要となる人事の考え方が書かれています。

キャリアオーナーシップ経営とは

「キャリアオーナーシップ」とは、個人が自分の「キャリア」に対して主体性を持って取り組む意識と行動のことをいう。ただ、決して個人だけに任されるものではなく、企業と個人の双方向で発生する新しい関係の上にはじめて成り立つ概念である。

 

キャリアオーナーシップは個人の責任とされがちだが、それを支援する環境整備こそが企業の役割であり、以下の3つの支援がある。

  1. トップのコミットメントとメッセージの発信
  2. 個人の意識改革に向けたマインドセット支援
  3. 多様な機会提供(社内越境、キャリア対話、リスキリングなど)

人的資本経営の視点からは、キャリアオーナーシップは単なる人事施策ではなく、中長期の企業価値向上を支える経営戦略の一環と捉えるべきとされる。

 

キャリアオーナーシップ経営は、働く個人と企業が、それぞれの目的・意志・責任を持ち、個人のキャリアと事業の価値創造を共に担うことを前提に構築される、個人と組織の持続的な共成長と共通の実現を目指す経営モデルである。このモデルは、次の3つの視点に基づいて構築・運用される。

  1. キャリアオーナーシップを発揮する人材を可視化すること
  2. そのような人材が育ち、活躍し続けられる仕組みを通じて増やすこと
  3. 組織の中核をなす事業戦略や価値創造プロセスと結びつけていくこと

これらの視点を通じた実践により、キャリアオーナーシップ経営は、人材の自律的成長を起点に、企業の競争力と持続的価値創出を実現する戦略基盤となる。

 

企業と個人の双方向の関係性実現のための施策

個人が自分のキャリアに主体的に取り組む姿勢は、企業に対しても「与えられるのを待つ」のではなく、「共に創る」関係への転換を促している。この双方向の関係性を実現するためには、以下の施策が求められる。

  • ミッションの共創
    企業のパーパスと個人のキャリアビジョンが重なる領域を明確にし、共感を基軸とした働き方を設計する
  • 相互の責任の明文化
    「企業と個人が互いに約束と責任を果たす」という姿勢が、信頼関係の基盤となる
  • 人材育成と配置の透明化
    社内異動・育成方針について本人の意志を重視することで、個人の自律性と企業の戦略を連動させる仕組みが必要
  • ネットワーク型組織の推進
    副業・越境体験・他社連携など、個人が複数の組織や場に関与できるネットワーク型組織を志向するのを推進する

 

キャリアオーナーシップを実現するために必要なこと

日本企業における多くの人事戦略は「制度設計そのもの」を目的とする傾向が強く、事業の目的や戦略とは切り離されて設計されている。評価制度、等級制度、研修体系などが事業課題とは関係なく存在しており、現場では「制度に合わせて働く」ことが目的化してしまう構図が見られる。こうした制度中心主義は、社員のキャリア形成をも画一的なものにし、個別の強みや挑戦を活かしにくい環境を生み出している。

経営と人事が連動しない最大の要因は、人事部門が経営戦略の議論のテーブルにいないことにある。人材戦略が「業績や中長期ビジョンとどうつながるか」の議論がなされないまま、制度のみが独立して存在している状態では、キャリアオーナーシップの土壌は育たない。

 

キャリアオーナーシップと事業戦略の連動を推進するためには「従業員のキャリア志向」「スキル」「成長プロセス」を可視化する仕組みが必要とされている。それらがどのように事業に貢献しているかを定量的に示す「キャリア貢献性」の可視化も重要な要素である。

また「戦略的人事」を実現する上で、HRBPの存在も不可欠である。事業部門に近い位置で人材戦略を支援し、現場と経営、人事をつなぐ役割を担うことで、より機動的なキャリアオーナーシップ支援が可能となる。

 

そして、人事部門は、これまでのオペレーション中心の役割から企業変革を先導する戦略的パートナーへの進化が求められる。そのためには、次の5つのアクションが必要になる。

  1. 人事自身がキャリアオーナーシップを信じ、行動している
  2. 会社全体を巻き込む広報能力がある
  3. 人事部門のメンバーが多様なバックグラウンドを持っている
  4. データから施策が考えられる
  5. 組織内に閉じない広い視野がある