100年続く老舗企業が大事にしていること

発刊
2025年8月29日
ページ数
312ページ
読了目安
359分
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100年続く老舗企業の経営哲学
100年以上続く老舗企業の共通点を解説しながら、なぜ長期間にわたって企業が継続するのか、その仕組みを解き明かしている一冊。

老舗企業には、アメリカ型の経営マネジメントとは異なる、江戸時代に流行した「陽明学」の思想をベースとした実践的な経営哲学、仕組みがあるとし、その内容を紹介しています。

経済的な成長を目指すことだけが必ずしも正解ではなくなっている現代において、長く続く老舗企業の知恵が、企業の役割とは何かについて考えさせるきっかけを与えてくれます。

100年続く企業の共通点

世界には創業から100年を超える企業が74037社存在し、日本には37085社が存在する。

日本の100年企業のルーツは「江戸」にある。江戸は、知識階級から庶民まで、鎖国という外部から遮断された環境下で、ひたむきに儒学を学んだ時代である。日本の100年企業には実践的な哲学が確立されており、経験に裏打ちされ、哲学に昇華された戦略やビジネス手法がある。

 

100年企業には、以下の共通点がある。

①利益がなくても経営が傾かない

窮地に陥った時、社員が「会社を倒すまい」と必死になったり、他社が「あの会社を潰すまい」と傘を差し出す関係性が存在する。

 

②就業規則と評価制度がない

交流機会の設計とマナー・道徳教育という、規則と評価・賞罰に頼らないマネジメント手法が使われている。

 

③「キレイごと」で経営が成り立つ

顧客だけでなく「社員」も大切にし、時には顧客よりも「社員」を大切にする。大切にする仕方が半端ではなく、例えば、ずっと成果を出せない社員を辞めさせずに給与を払い続けるといった、社員が長く働ける環境を整えようとする。さらには、社員だけでなく、取引先にも同じような姿勢を打ち出す。つまり、人を大切にすることで利益が生まれる事業構造を作り上げている。

 

④マニュアルを用意しない

マニュアルではなく「1人1人の良心(良知)に基づいて最善の対応をする」という明確な方針がある。

 

⑤理不尽さのない温かな同族経営

大企業でないにもかかわらず、給与や福利厚生、教育等々、一般企業では考えられない手厚いケアが社員に施されているケースが多い。社員の生活や成長を真剣に支えようとする姿勢が、企業風土として脈々と受け継がれている。社員を大切にすることで競争力を養い、実益につなげる。この理念や価値観をブレなく伝えるために、厳格に同族へ事業承継していく。

 

⑥時代と逆行する非合理なシステム

給与の手渡しにこだわる、現金商売を重視する、多少値段が高くても近所で買う、社員の生活状況を考慮して給与を決めるなど、「信頼」と「関係性」を重んじる文化がある。

 

100年企業を理解するための4つの視点

以下の4つの視点を理解することで、100年企業の行動や経営判断は、実は時間をかけて完成された経営手法だということがわかる。

 

①2つの組織:機能体型と共同体型

組織には、次の2種類がある。

  • 機能体型
    特定の目的を達成するために組織された集団。アメリカ型の企業は「機能体型」に分類され、株主利益を最大限に高めることを目的にする。
  • 共同体型
    組織が先に存在し、その組織を維持・存続させるために、様々な活動が行われる。村落共同体やPTA、大家族などは典型的な姿である。

農村社会で家族単位の共同体が営まれてきた日本人は無意識に「共同体型」の経営に親しんでいる。共同体においては「コミュニティそのものの精神」が最大の目的となる。利潤の極大化やオーナーの利益追求が目的ではない。そこに属する人々の安定した営みが最大の目的になる。100年企業の多くは共同体的な性質を持つ。

 

②2つのマネジメント:法家と儒家

マネジメントには、次の2つのアプローチがある。

  • 法家的マネジメント
    規則と評価、賞罰によりマネジメントする。明確なルールを定め、それに基づき、評価・賞罰を与える。主に機能体で用いられる。
  • 儒家的マネジメント
    人と人とが知り合い、仲良くなる機会をつくり、メンバー間に信頼関係を築くことで、良心や思いやりが働くようにする。つまり、知り合った人たちが仲良く交流できるイベントの場を提供する。そして、交流により生まれた人間関係が安定継続するように、メンバーに対して「マナー教育」を行う。

法家のやり方はミッションの達成過程では、有効に機能するが、「分け与える報酬」がなくなった時、組織は一気に崩壊していく危険が生じる。一方、儒家のやり方は仲良くなれる「きっかけ」や「場」をつくる。人間は、好き嫌いとは別に知っている程度によって良心を発揮する。但し、儒家のやり方には、意思決定に時間がかかるという短所がある。

 

③人間観:性弱説

誰しも「人として何をすべきか」を知っている、いわゆる良知(正しい知恵・判断力)を持っている。しかし、常にそれを実行できる強さは持っていない。だからこそ、マネジメントの役割は、この弱さを持った人間がいつでも「良知」を発揮しやすい環境を整えること、心の強さを育んでいくことにある。

 

④価値観:庶民が9割

江戸時代の人口の90%以上は庶民。つまり、江戸時代に「庶民」の間で育まれた文化や価値観が、100年企業の精神的な土台になっている。武士の世界では「いかに上位者に敬意を払うか」に重きが置かれるが、庶民は共同体において「仲間にどれだけ気遣いができるか」を重視する。100年企業では、庶民的な横のつながりを重んじる共同体型の価値観が息づいていることが多い。