町工場のすごいカイゼン

発刊
2025年6月30日
ページ数
208ページ
読了目安
177分
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推薦者

トヨタ生産方式を町工場に導入する方法
赤字体質だった典型的な町工場を入社後8年で、売上高3倍にした経営改善の方法を紹介している一冊。
トヨタ生産方式を町工場で導入できるようにアレンジするための考え方が書かれています。

中小企業ではどのように現場を改善し、経営を変えていけば良いのか、実体験から学んだ方法論から、中小企業の経営にとって必要な考え方を学ぶことができます。

赤字体質の町工場

大伸ダイス工業は、1965年創業の大阪の町工場である。主力製品は耐摩耗工具(ダイス)と言う鉄などの金属の棒を常温のままそこに通して変形させる金型である。ダイスは、ゴルフのシャフト、電線や産業機械のシリンダーパイプ、自動車部品、カテーテルなどの医療器具の製造にも使われている。

大伸工業の強みは、超硬合金を0.001mmという高精度で加工できる技術と、鏡のようにピカピカに磨き上げる技術である。ダイスの設計から製造まで一貫して行なっており、特に設計は特許も取得しているノウハウがあり、水素自動車のある部品は大伸工業でなれけば作れないオンリーワンの技術となっている。

 

そんな大伸工業も当時は、古臭く汚れた現場環境で漫然と仕事をし、赤字を垂れ流す経営が行われていた。そこで、いわゆる「3S(整理・整頓・清掃)活動」をやろうと思い立ち、社員に対して「まずは社内をきれいにしよう」と呼び掛けたが、スルーされた。ならば率先垂範だとばかりに、掃除や環境整備を数ヶ月続けていると、手伝ってくれる社員が増えていった。清掃活動に賛同する社員が一定数に増えたところで、まずは時間を決めて整理・整頓を始めた。

 

経営者として最重要課題は、赤字体質をどう改善して業績を上げていくかだった。製造業としての収益力を上げるべく、生産性を高めていく上で大きな課題は、生産設備だった。機械が古いことで作業がストップし、修理にも時間がかかり、維持費もかかる。加工精度も上がらず、製品の品質も向上させることができなくなる。しかし、設備を変えると、普通は現場の動き方や業務の流れなども変えなければならなくなるため、現場の職人から猛反発された。

製造業であるにもかかわらず、生産管理や進捗管理、顧客管理なども全くと言っていいほど行われていなかった。手がけた製品の記録も残されていなかった。

 

最も重たかったのは、従業員の意識だった。現場に初めて作るような仕様の注文を持っていくと「こんなもんできるか!」と言って突き返すような感じで、営業担当も新規のオファーを断っていた。

 

トヨタ生産方式(TPS)とは

TPSは、メリットが大きい一方、中小企業ではノウハウをただスライドして使うことはできない。現状に即した導入方法を検討する必要がある。

TPSの根底には「企業は存続するために儲けなければならない」という考えがある。そのためには、徹底的なムダの排除による原価や経費の低減と、より良い製品をリーズナブルな価格で提供することが必要である。そしてそのためには生産性の向上が不可欠で、生産性を高める方法論として次の2つの柱が打ち出されている。

 

①ジャストインタイム

必要なものを必要な時に必要なだけをムダなく作る仕組み。前提には生産量や生産方式の平準化がある。その実現のために、生産の工程内や工程間でモノの滞留をなくすことが求められる。

 

②自働化

機械に人の知恵を加えるという考え方。機械が異常時に自動で止まったり、人が異常を見つけるとランプ点灯で知らせ、ラインを止めて後工程に不良品を送らないという「あんどん方式」が代表的なものである。

 

町工場が導入できるTPSの考え方

町工場がTPSの考え方を導入するには、一手間かける必要がある。町工場にとってのムダの排除とは、「必要な備えを最小で持つ」ために、意図的にムダに見える余力を持たせることと言える。TPSの中で町工場の参考になるものは次の通りである。

 

・同期化

流れを止めないために、どの工程も過不足なく、偏りなく、ムダなく動くこと。工程全体を平準化させる上で、ある工程がボトルネックになっているのであれば、その工程を外注化するなどしてつまりを解消する。

 

・多工程持ち

ライン作業員が複数の生産設備を担当するオペレーション方法。これにより、融通性が高まり、頭数を減らすことができる。

 

・多能工化

1人の作業員が複数の作業ができるようにする。多能工化も多工程持ちと同義で、多能工化によって多工程多工程持ちができる。

 

・工程順の設備配置

設備に人が付くのではなく、人を主体にして設備配置を考える。1人の作業員が複数の作業をしやすいようにできるだけ設備を近づけて配置する。

 

・作業の標準化

1日の生産量から作業時間を算出し、そのタイム内でつくれるようにする作業のお手本を「標準作業」と言う。標準作業は熟練者ができることだが、新人にこれができることを目標として教育訓練を行う。

 

・少人化

生産必要数が減った場合、生産性を落とすことなく作業を集約・再設計することで、必要人員を減らす。

 

・後工程引き取り

前工程が後工程の必要とするものを必要な時に必要なだけ生産することで、無駄な中間在庫をつくらない。在庫を持たずに小ロットでの生産を効率よく進める。