エンパワーメントとは
エンパワーメントとは、自律した社員が自らの力で仕事を進めていける環境をつくろうとする取り組みである。社員の中で眠っている能力を引き出し、最大限に活用することを目指す。エンパワーされた社員は、組織と自分自身の両方に利益をもたらす。仕事にも生活にも目的意識を持って取り組み、会社の仕組みや業務の進め方を改善し続ける原動力となる。
エンパワーメントが実現すれば、社員は最善のアイデアを生み、最高の仕事をするようになる。熱意を持って、自分のこととして、そして誇りを持って仕事に取り組む。会社の利益と自らの目標を高いレベルで融合させ、責任を持って行動するようになる。
上司が管理し、部下は管理される、という伝統的なマネジメント・モデルはもはや効力を失っている。エンパワーされた職場をつくろうとする経営者は、社員を駒のように使う指揮命令的発想から、全社員が自らの責任感に導かれて最善を尽くせるような支援的発想に頭を切り替えなくてはならない。
上司が部下のために仕事をする
真のエンパワーは人にパワーを与えることではない。与えてもらわなくても、人は元々たっぷりのパワー(知識、経験、意欲)を持っていて、立派に自分の仕事ができる。エンパワーメントとは「社員が持っているパワーを解き放ち、それを会社の課題や成果を達成するために発揮させること」である。
本物のエンパワーメントには、その核心にオーナーシップの感覚がある。オーナーシップとは、この会社は自分の会社、この仕事は自分の仕事という風に、すべてを自分のこととして主体的に向き合う態度である。それはトップ・マネジメントの社員に対する考え方を変えることから始まる。ほとんどの組織は、社員を励まして正しい行動を促すのではなく、間違いを見つけて懲らしめることばかりに意識が向いている。
エンパワー・マネジャーとなった上司の新しい役割は、部下が才能とエネルギーを伸ばすことを助け、彼らが会社のゴール達成に向けて効果的に働けるように支援することである。もはや部下が上司のために仕事をするのではなくて、上司が部下のために仕事をするということである。
エンパワーメントの3つの鍵
エンパワーメント組織をつくるには次の3つの鍵がある。
①すべての社員と情報を共有する
社員が最も必要としている情報は、会社が置かれている状況についての情報である。正しい意思決定をタイムリーに行うのに必要な正確な情報を、すべての社員にシェアすることが必要である。正確な情報を持っていれば、責任ある仕事をせずにいられなくなる。
そして、重要な情報を共有することは、相手を信頼していることを伝える一番の方法となる。信頼こそがエンパワーメントの基礎である。
②境界線によって自律した働き方を促す
社員には行動のよすがとなる何らかの枠組みが必要である。自分たちで決めることができ、決めたことに従って行動して構わないという、自律を促す境界線が必要である。新しい境界線を定めるときに重要な要素は「目的」「価値観」「イメージ」「目標」「役割」「組織の構造とシステム」の6つ。まず経営陣が会社の進む方向を明確に定義し、全社員でそれに磨きをかけ、全社員が深く理解することが必要である。目標がはっきり見えていないと、社員はいい仕事ができないし、エンパワーもされない。
③階層思考をセルフマネジメント・チームで置き換える
階層組織は動きが遅すぎ、手続きも面倒である。エンパワーされた社員からなるチームの方が、ばらばらの社員の寄せ集めより強力である。セルフマネジメント・チームは、業務プロセス全体あるいは製品やサービス全体について責任を持った社員によって構成され、仕事の最初から最後までを計画し、実施し、管理する。