余剰人員は最強の武器である 育てて勝つ中小企業の人材戦略

発刊
2025年6月30日
ページ数
208ページ
読了目安
213分
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推薦者

人手不足時代の中小企業の生き残り戦略
必要な時に即戦力を採用できるのは、限られた大企業だけ。常に人手不足に悩まされ、最初からピカピカな人材を採用することが難しい中小企業においては、余剰人員を抱え、人材を育成して戦力化していくことが大切であると説いています。

倉庫のサブリース事業を展開し、様々な新規事業を立ち上げて多角化している中小企業の人材投資への取り組みが紹介されています。

余剰人員は攻めの切り札

人件費は経営を圧迫する経費ではなく、会社を成長させていくための必要な投資である。人材は決して、コストカットの際の便利な道具ではない。会社が「攻め」に転じた時の切り札である。

倉庫のサブリース事業を手がける大倉は、いくつも新規事業に打って出た。挑戦できるのは、普段から余剰人員を豊富に抱えているからである。余剰人員を備えておけば、人手が欲しい時、新規に採用したり、戦力を育てていく手間を削減できる。会社の理念や考え方を1から指導するタイムロスも、ほとんどゼロにできる。

1つの仕事だけでなく、フレキシブルに活躍できるのが余剰人員の魅力である。育成した力と意欲が組み合わされば、人材は会社のどの部門に行っても通用する。柔軟な能力づくりのためにも、普段から意見の通りやすさを維持しておくことは大切である。

 

躍進していくためには、すべての事業のスピード化を図らなければならない。危機時を想定したリスクヘッジも欠かせない。その2つを支えるのが、余剰人員の確保になる。有望な新規事業が立ち上げられたとしても、そのタイミングで人材募集しているようでは遅い。欲しい時に欲しい人がいくらでも採れるのは、限られた大企業だけである。

 

余剰人員を「育成枠」として育てる

余剰人員を抱えておくことは、コストがかかる。一人前未満の人材を自分たちで育てないといけないため、時間をかける覚悟も辛抱強さも必要である。人は磨けば必ず伸びる。正しく育てれば必ず力がついて、いい仕事をしてくれるようになる。意識も価値観もポジティブに変わる。

 

大倉では人材の適性や能力を鑑みてレベルを5段階に分けている。それを人材評価の基本の指標として採用や人事に活用している。

 

人材評価1:社会人の基本的な能力が不足している

  • 普段の挨拶も受け答えが怪しい
  • 採用は難しい。育成枠で抱えることも検討しない

人材評価2:社会人の基本的な能力は一応備わっている

  • 相手の目を見て挨拶できる
  • 採用は面接で検討、調整。育成枠で会社に抱える候補

人材評価3:事務・法律・企画・ITなど、社会人の基本のスキルが備わっている

  • コミュニケーション能力が高い。各部署の即戦力。
  • 面接では積極的に採りたい。幹部候補にもなりうる

人材評価4:事務・法律・企画・ITなど、スキルはすべてプロフェッショナル

  • 対外的な交渉や折衝だけでなく、チーム管理もできる
  • 面接では優先して採る。マネージャー及び幹部候補

人材評価5:すべての社会人のスキルが、エキスパート

  • 大組織のマネジメント経験者
  • 個人で億単位のプロジェクトを採れる人脈がある
  • 経営戦略に詳しい。社長を任せられる

 

採用を考えられるのは評価2からで、会社の育成枠=余剰人員に入る。評価3の人材は有名大学を好成績で卒業している新卒上位学生か、企業での一定の業務経験者が多い。評価4と5の人材はかなり稀少で、大手企業にも人数は限られていて、20代の若い社会人にはほぼいないかもしれない。中小企業が募集をかけて、採用面接に来てくれるのは9割が1〜2、ごくまれに3の人材がいたらラッキーというのが実情である。

 

人材評価2以上で「やる気」「素直さ」が備わり、スムーズな会話ができる人は無条件で採用する。中小企業は人材評価2以上の人を採用して、指導担当の上司が評価2.5〜3以上に成長できるよう教育すること。余剰人員を育成枠として抱え、来るべき時機に戦力となる評価3以上に育てていく戦略で戦っていくしかない。

 

自責思考で人材は伸びる

育成で伸びる人の一番の特性は、シンプルに素直なことである。認知バイアスがなく、他人の意見をよく聞けて、改善する意欲が高い人は必ず伸びていく。学力や基礎的な能力は、関係していない。むしろ素直でさえあれば、基礎的な能力の大部分はカバーできる。

逆に育成で伸びない人は素直ではないこと。何事も自分の責任に置き換えられない「他責思考」の持ち主である。そういう人は評価3以上でもなかなか採用できない。「他責思考」の人は、なまじ頭が良かったりするので、自分の未熟さを周りの人や環境、運の悪さにうまくすり替え居直っている。

 

自分に責任を置き換えられる姿勢を整えた人は必ず伸びる。早く会社の戦力にもなる。「自責思考」であれば、クリアすべき課題の解像度が上がる。上司になって育成をする側も、まず若手の「他責思考」を改めることに努めることである。

 

人材マネジメントを成功させるヒントは「引き上げる」という意識である。指示通りに動いているだけでは、人材の本当の能力が上がらない。自分で考える機会をちょっとずつ育成枠の人材に与えること。質問があった時に「どうしてそう思う?」とか、対処の決定権を委ねて考える機会を持たせる。仕事に対して、自分で責任を持つという思考づけの促進が、「引き上がる」ことにつながる。