ビジネスパーソンが身につけるべき基本能力
企業が存続するためには、お金を稼ぎ続けなければならない。利益を維持し続け、発展し続けている企業は、大抵将来性のある戦略・計画を明確に持っている。この戦略や計画こそが「ビジネス思考」である。このビジネス思考は、あらゆるビジネスパーソンが身につけるべき能力である。ビジネス思考によって、自分の仕事に対する理解を深め、マクロな視点を持って仕事に向き合うことができるようになり、自分の仕事が会社に与える影響を理解できるようになる。また、現在の状況を冷静かつ明確に分析できるようになる。
ビジネス思考は、主に4つの力に分類することができる。
①プロダクト思考力
「製品が市場でどのように受け取られているのか?」などの視点から、自社製品のことをより深く理解すること。TSMCの社員は「自分は、半導体を製造するだけのエンジニアに過ぎない」とは考えず、社員1人1人が思考の幅を狭めないようにしている。
②マーケット思考力
製品が最終的に行き着く先は「市場」であるため、より直接的に「市場の動向」や「トレンドの変化」を把握しておく必要がある。情報を分析できれば、市場の需要に応えるために、今後の数年間をかけて、自社製品の生産能力を増強すべきかどうか判断する基準となる。
③財務思考力
TSMCでは、マネジメント職から工場で働く社員まで、コスト意識を持たせるようにしている。財務思考力の中でも、財務三表における「コスト」と「売上」という2つの概念については、多くの社員が頭に入れておくべきである。コスト構造を理解できれば、「どのようにすれば、コストを削減することができ、売上を増やすことができるか」がわかり、経営の意図を理解できる。
④競争意識力
TSMCには「競合他社のシェアはどうか?」「競合他社を上回るためにはどうすればいいのか?」と上司が部下に対して頻繁に聞く文化がある。
問題を一撃で解決する
問題が発生した際、改善策が部分的な改善のみにとどまるケースは少なくない。ビジネスの視点から見ると、部分的な改善は効率が悪い。部分的な改善にとどまる原因の1つは「真の問題をとらえそこなっている」こと。最も重要なのは「関連するすべての問題点を見つけ出す」ことである。問題を一撃で解決する「トータルソリューション」が必要不可欠である。まずは一度立ち止まって、「どうすれば総合的に問題が解決できるか?」を考えるべきである。
トータルソリューションを実践するためには、次の3つのマネジメント術が有効である。
①業務改革のための専門人材を育成する
トータルソリューションを担当する専門部署が主導権を握り、工程を全面的に整理し、より良い全体的な解決策を見つけ出す。この際に使うべき手法は「ビジネス・プロセス・エンジニアリング」(BPR)と呼ばれる。BPRは次の5つのステップで行う。
- 改善テーマの特定:会社全体の運営プロセス
- 現状の分析:フローチャートの分析の実行、問題の棚卸し
- プロセスの原因分析:「なぜなぜ」分析の実行、根本原因の検証
- プロセスの改善と刷新:ベンチマークとの比較、小規模な実験の実行
- プロセスの管理と維持:管理計画の再考、再発防止策の立案、マニュアル化、トレーニング
②全社的なプロジェクトを「技術職のリーダー」に任せる
技術職のリーダーが中核として携わると、そのプロジェクトに関わる人たちにも技術職が持っている管理スキルが身に付く。さらに部署を超えたコミュニケーションが行われたり、部下からの積極的な提案がよく出てきたりする傾向がある。その結果、プロジェクトの成功率が高まる。
③プロジェクトチームの力を有効活用する
会社は、全社的なプロジェクトをいくつか実施しながら、組織や会社の年間目標を達成しなければならない。これに参加することで、メンバーは問題の全体像を見る目を養うことができる。部署と部署、社員と社員が有機的につながり、結束力を高め、企業の競争力を高めるべきである。
常に改善し続ける
TSMCや鴻海、トヨタといった企業の成功を語る際に、最も重要な理由と言われているのが「継続的改善の文化がある」ことである。成功とは偶然に起こるものではなく、不断の努力の積み重ねの結果である。
継続的な改善の重要な柱として活用できるのが「CIT(Continual Improvement Team)活動」である。これは、「企業の体質改善」と「競争力強化」を目的としたチームのことである。継続的改善が定着するまでには、非常に時間がかり、短期間では効果が見えにくい。この「継続的改善」を根付かせるポイントは、「専門部署を作り、専任の人材を配置する」ことである。欠かせないのが、社員の継続的改善の意欲を高めることである。この文化を根付かせるためには、改善の事例を発表できる場を作るべきである。