部下が自ら育つ環境を整える
部下の成長のためには、日々の上司への問いかけに対して、死んでも答えを教えないこと。質問には質問を重ねる。部下が黙り込んだら、こちらも黙る。知識が足りないのなら、勉強法を教える。
以上しが部下に答えを教え続けると、部下は「思考停止病」にかかる。何か問題があった際、すぐに上司に頼り、答えをもらうことに慣れてしまう。その結果、自分で考える力を失い、部下は成長する機会を逃してしまう。
頭のいい上司は「上司が育てる」のではなく、「部下が自ら育つ」ことが部下育成の本質だと考えている。上司から教えてもらったことは、その時は「なるほど」と思っても、部下の血となり肉となって定着することは多くない。部下自身が主体的に学ぶ方が、知識やスキルは格段に身につきやすい。
頭のいい上司は「部下が自ら育つ」きっかけや環境を整備することこそが、自分に課せられた最も重要な仕事であり、役割だと捉えている。会社と上司が整備すべき「部下が自ら育つ」環境には、以下の代表的なものがある。
- 上司が部下に成長できる仕事と場を与える環境(仕事を任せる、OJT)
- 上司が部下の成長のPDCAを回す環境(成長のゴールを示す、1on1)
- 部下との対話の中で部下が育つ環境(答えを与えず、部下に自ら考えさせる対話をする)
- 集合研修を設計し、部下に受講させる環境(集合研修、外部研修、勉強会)
- 部下が中長期的に目指すべき姿を上司が提示する環境(キャリアパス、仕事の心得やマニュアル)
- 部下にライバルを見つけさせ、部下/後輩をつける環境
- 部下に振り返りと自主トレを促すほどよい環境(振り返りの習慣、本を読んでもらう仕掛け)
この7つの環境の中で最も頻繁に発生し、効果が高い上に費用もかからないのが「部下との対話の中で部下が育つ」環境である。
部下が質問したい上司になる
上司と部下との対話の中で「部下を自ら育てる」ためには、日頃の対話やミーティングで部下から質問されても、死んでも部下に答えを教えてはならない。部下から質問されたら「◯◯さんは、どう思うの?」/「◯◯さんは、どうしたいの?」と切り返す。上司からの切り返しにより、部下は自分で考えるようになり、やがて答えを自分で見つけ、成長していく。
部下が職場で、気軽に上司へ質問したり、逆に上司からの問いかけに前向きに答えられたりする環境が整うと、建設的な対話が生まれるようになる。この対話で部下は自らの考える力を鍛える。そのためには、部下が次のような「質問したい上司」になる必要がある。
- 部下の話をじっくり聴いてくれる
- 部下の話をすぐに否定しない
- 部下に曖昧な指示を出さない
- 部下に興味・関心がある
- 個人で成果を出せる
- 自慢をしない
- 部下のサポート/応援をしてくれる
- 厳しすぎるマネジメントをしない
部下から信頼される上司、尊敬される上司、部下のモチベーションを下げない上司であることが重要である。
部下からの質問には死んでも答えを教えない
①部下からの質問には「◯◯さんは、どう思うの?/どうしたいの?」と切り返す
上司が切り返して質問をする際には、詰問調ではなく、「優しく、ゆっくり」問いかける。
②部下に「わかりません」と言われたら「紙に書いて考えたら?」と指示を出す
答えを教えずに、紙に書いて考えるように指示をする。その際、ちょっとしたヒントで部下が答えを出せそうなら、ヒントを与える。
③部下から答えが出てこない場合は、沈黙するか「作業してるから、ゆっくり考えて」と言う
部下から答えが出てこなかった時には、ひとまず自分も沈黙し、部下が答えを出すのをゆっくり待つ。
④部下の答えが間違っていた場合は、「そのこころは?」と問いかける
人間関係で最も大事なことは「相手のことを否定しない」ことである。つまり、部下が答えた内容が間違っていても、頭ごなしに否定するのは避ける。部下がそうした意見を述べた背景や、部下の視点・考え方を理解し、フィードバックする。
⑤部下に全く知識がない場合は、調べ方を教える
上司から教えられた情報よりも、部下が自分で調べて得た情報の方が、部下の血となり、肉となり、使える知識になる。調べ方を教えるだけでなく「明日から実践していくこと」「理解できなかったこと」の2つを部下にまとめさせ、上司にプレゼンさせることも重要である。
⑥部下が「急いで対応しないといけないので教えて下さい」と上司を焦らせてきたら、○×クイズや3択クイズで対応する
まず具体的な猶予時間を確認し、2〜5分の時間があれば、いくつかの「選択肢を提示」して部下に考えさせる。緊急対応が終わった直後には、必ず振り返りを行う。
⑦部下から「マネジャーの考えが知りたいです」とお願いされたら「後で教えるから、先に◯◯さんの考えを聞かせて下さい」と言う
「◯◯さんの成長のために自分で考えてもらいたい」と理由を明言してもいい。