The Nvidia Way エヌビディアの流儀

発刊
2025年2月26日
ページ数
464ページ
読了目安
593分
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エヌビディアの競争優位性の本質
エヌビディアの創業から現在までの物語をベースに、エヌビディアの競合優位性の根源となっている文化を解き明かしている一冊。

創業者であり現在もCEOを務めるジェンスン・ファンの哲学や、彼がこれまでエヌビディアのターニングポイントでどのような意思決定をしてきたのかが、描かれています。創業から様々な危機を乗り越え、やがてAI時代の波に乗り、世界1位の企業評価を受けるに至った組織運営を知ることができます。

エヌビディアの決定的な特徴

エヌビディアを特別な存在にしている決定的な特徴は、技術力ではない。技術力は結果であって根本原因ではない。エヌビディアを特徴づけるのは「エヌビディアの流儀」と呼べる独特の組織設計や労働文化だ。この文化こそが、各社員に与えられる異例の自律性と最大限の基準を結びつけている。最高の品質を求めつつ、最高のスピードを促している。エヌビディアが他の企業と一線を画すのは、CEOであるジェンスン・ファンの経営スタイルなのだ。

 

彼が今のような経営スタイルを取り入れているのは、エヌビディアの最大の敵は競合他社ではなく、むしろエヌビディア自身であると信じているからだ。成功を遂げてきた企業に例外なく忍び寄る「慢心」の原因となる社内政治を排除するため、フラットな組織を築き、公的な説明責任や必要に応じた公開叱責という手段を取り入れている。

 

ジェンスンの哲学

現在のエヌビディアも、1993年創業当時と多くの共通点がある。相変わらず技術力と最大限の努力を何より重視し、短期的な株価ではなく、長期を見据えた戦略的な判断を行なっている。さらに、移り変わりの激しい業界をリードする企業に欠かせない強迫観念を持って事業を営み、常に衰退や陳腐化を転げ落ちる前に軌道修正を試みる。そして、いまだにCEOが直接経営に携わり、製品に関する意思決定、販売交渉、投資家向け広報などに深く関与している。

 

①全員の前で直接的なフィードバック

ジェンスンは、多くの地域から多くの人々が集まるほど社風は衰退しやすく、社風の衰退は製品の品質に悪影響を及ぼしかねないということを痛感していた。しかし、巨大化したエヌビディアでは、全社員と継続的にコミュニケーションを取るのが難しい。そこで、彼はなるべく多くの人に1つのミスから学ぶ機会を与えられるよう、より大きな会議の場でエヌビディア社員に直接的なフィードバックを与えることにした。

ジェンスンは、どんな場面でも率直さや気の短さを発揮し、場所にかまわず、15分間も誰かを叱責し続けることもしょっちゅうだった。時に辛辣とも思えるやり方は、意図的な選択だ。「あえて試練を与えて偉大な人間に育てたいんだ」とジェンスンは言う。ジェンスンの時間も社員の時間も、次の問題の解決に使ってこそ最高の価値を持つ。褒め言葉はそこから目を背けさせるだけだ。そして、最高の過ちとは、過去の栄光が未来の脅威から自分を守ってくれると思い込むことなのだ。

 

②オープンでフラットな組織

ジェンスンは、社員たちがより自立して行動できるよう、フラットな構造を選ぶべきだと考えた。フラットな構造を築けば、自分の頭で考えて行動することに慣れていない無能な社員を淘汰できるとも考えた。彼は、従来のピラミッド型の企業構造は、最高の組織づくりを妨げると考え、平べったい円柱のような形状の組織をつくった。

現在では、ジェンスンの直属の幹部社員が60人を超える。重役会議に多くの幹部たちが参加することで、透明性や知識の共有といった文化が育まれた。幹部社員と最も若手の社員たちとの間に、それほど階級の差はないので、組織内の誰もが問題解決に協力したり、潜在的な問題に備えたりすることができる。

共有したい重要な情報があると、ジェンスンは全社員に一斉に伝えてフィードバックを求める。直属の部下を多くし、1対1の面談を極力減らすことで、会社がフラットになり、情報が素早く伝達され、社員が力を得られるようになった。

 

③使命こそが究極のボスである

ジェンスンは社員たちに、究極のボスは使命そのものだと伝えている。つまり、上司のキャリアを後押しするためではなく、顧客の利益のために意思決定を行うという意味だ。この哲学のもと、新しいプロジェクト開始時には必ず、自分に直属するリーダー「機長(PIC)」を使命する。これにより、標準的な縦割りの構造よりもはるかに大きい説明責任と、仕事をきちんとこなそうという強いインセンティブが芽生えた。PICはジェンスン並みの権限が与えられ、組織中から優先的なサポートが受けられた。

 

④トップ5メール

エヌビディアの経営陣は、正式な状況報告は情報が美化されすぎていて使い物にならないと考えていた。そこで、ジェンスンは、組織のあらゆるレベルの社員に対し、自分の取り組んでいることや最近市場で気づいたことのトップ5をまとめたメールを、自分の所属チームや幹部たちに送るよう求めた。例えば、顧客の悩みや、競合他社の動向、技術の進展、プロジェクトの遅れの可能性などだ。

この「トップ5」メールは、ジェンスンにとって欠かせないフィードバック手段になった。これにより、若手社員の目には明らかでも、彼自身や幹部社員たちにはまだ見えていない市場の変化を先取りすることができる。このメールを頼りにほぼリアルタイムで戦略的な思考を練っていった。