業務が複雑で先延ばし
仕事に対する先延ばしは、個人の行為ではあるものの、状況や環境の要因が関わる。タスクの「難しさ」や「曖昧さ」は、タスクの先延ばしに大きく関わることがわかっている。難しいと感じるタスクに取り組むと、上手く進められないといった挫折や大小の失敗をしてしまうことを連想するため、タスクが先延ばしにされがちになる。また、タスクが曖昧だと、人は進め方がわかりやすい仕事を優先しがちになるため、先延ばしが起きる。
対策の基本方針は難易度と曖昧さを適切なレベルに調整することである。難易度に関しては、スキルや資源を提供して、本人の処理能力を高めていくことが対策になる。あるいは、適切な難易度のタスクを割り振ることも有効である。
タスクの曖昧さに関しては「タスクをどのように遂行すべきか」や「最終的な結果はどうあるべきか」についての明確な期待を伝えていくことが重要である。何を押さえるべきかがわかりやすくなり、タスクに着手しやすくなるため、先延ばしが抑制される。
タスクに対して「締切が設定されているかどうか」も先延ばしに大きく影響する。明確な締切が設けられていないタスクは先延ばしされがちである。また遠い締切は「どのくらい切迫しているか」をイメージしづらいため、実質的に締切が曖昧な状態になる。
タスクの曖昧さを解消するために「近接的な目標」を設定することが有効な対策となる。長期目標を中間や短期目標に分割すると、短いスパンで進捗状況がわかり、先延ばしが抑制される。
終わりが見えなくて先延ばし
達成感などの報酬が得られるまでの時間的な距離が遠い、なかなか報酬がもらえないと、タスクが先延ばしにされる傾向がある。これには、実際の遠さだけでなく、「遠さに対して本人がどらくらい敏感か」という個人の感覚も関係する。人は報酬が遠いと、身近ですぐに得られる報酬を優先的に得ようとする。
どんな仕事でも、着手さえすれば一定の進捗につながっていく。そこで、対策の基本方針としては「その仕事に関する達成を細かく設定する」ことが有効である。仕事の達成までの時間を短縮することで、報酬を得られるまでの時間が短くなり、モチベーションを維持しやすくなる。その結果、先延ばしが抑制される。
報酬が近くなるように、工数が少ないものから始めると早く達成を得られる。そのため、タスクを小さくしていくことも併せて進めていく。
締切までに期間ある仕事は、「時間的プレッシャー」がない仕事とも言える。長期間にわたるプロジェクトなどは、自分で締切を設けて、それを達成するよう目指していくことが欠かせない。下記の3つの対策がポイントになる。
- 全体と自身の設定した締切を管理する
- 現実的な締切を作る
- 締切に強制力を設ける
自信がなくて先延ばし
業務自体に負担を感じたり、本人が「うまくいくイメージを持てない」と思っていると、仕事を進めていく気になれず、その結果先延ばしが生じる。逆に「この課題はうまくできる」「自分ならばできる」と思えれば、先延ばしをすることなく、積極的に取り組んでいくことができる。
自己効力感とは、ある目標や課題に取り組む上で「その達成に必要な行動をとれる」と自信を持っている度合いのことである。自己効力感の高さは、先延ばしを抑えることが確認されている。自己効力感を高める対策の方向性は大きく2つある。
- 「成功できる」サブゴールを作って取り組む
- 成功事例を学ぶ・業務を依頼した人に成功の見込みを尋ねる
業務量が多すぎて先延ばし
考える余裕がないほどの業務量をこなしていると、重要な確認や仕事でも先延ばしにしがちである。業務量の調整には「ジョブ・クラフティングが有効である。ジョブ・クラフティングとは仕事そのものを自分なりにアレンジしたり、仕事の捉え方を変えるアプローチである。つまり創意工夫である。
ジョブ・クラフティングの1つの手法として、要求される仕事量の調整がある。自分にとって適切な量に変えていく「要求の低減」ができるとよい。これにより、過度な要求による負荷が軽減され、それぞれのタスクを着実に進めていける。
人は「これは自分がるるべき仕事なのか」「自分の手に負えない範囲なのではないか」と感じるような、いわば「不合理なタスク」を先延ばしにする傾向がある。これは不合理な仕事をさせるくらい職場から大切にされていないと疎外感を感じたり、自分の価値を見失ったり、ネガティブな感情が強まるため、先延ばしが起こりやすくなる。
こういった場合には、タスクの目的や意義を明確にし、不合理と感じないようにすることで、組織にとって価値のあるタスクに注力できる体制を整えていくことが重要である。