逆境こそ人を成長させる
人が辞めない会社とは「働きがいのある会社」とも言い換えられる。働きがいはお金だけで生まれるものではない。日々の仕事の中で評価されて達成感を味わったり、自分の成長を感じたり、成果を出して心が揺さぶられた時に最も実感する感情ではないか。
自分を成長させるためには「逆境に身を置く」のが一番効果がある。今は逆境を経験する場が少なくなった。大学は全入時代になり、多くの学校は競争を避ける教育をしている。今の若者は折れやすいと、失敗させないような社員教育をしている企業が増えた。今は試練の場は、自分から求めていかないと、なかなか体験できない。
そこで、無印良品では、ときに大胆な異動をする。海外赴任の話も「1ヶ月後に中国に行って欲しい」という感じで、いきなり通達する。多くの社員はそういう体験を通して打たれ強くなっていく。
無印良品は、なぜ働き続けたい会社になったか
無印が、働き続けたい会社になった理由は主に3つある。
①無印良品というブランドが好きで入社した人が多い
シンプルで機能的な無印良品の商品に愛着を持っているので、仕事に誇りを感じている。
②内部採用でじっくり育てた人を正社員にしている
アルバイトとして店舗で働いていた人の中から、能力のある人を正社員に起用する制度がある。
③「働きがい」を感じる職場を本気でつくっている
終身雇用・実力主義を目指している。終身雇用を保証しないと社員は安心して働けない。
人材育成の8割は異動で決まる
無印良品では「人間育成」をしている。そのために必要なのが「修羅場体験」である。逆境こそ、最も人を成長させる。ぬるま湯に成長する機会はない。ぬるま湯では、革新的な事を考える必要はない上、問題が起こった時に覚悟をもって突破する力は身に付かない。だから無印良品では、あえて社員に高めのハードルをつくる。その代表例が異動である。
・本人が希望している異動を尊重する
・3〜5年で異動になるケースが多い
・全く違う部署に異動させるケースが多い
・年齢にとらわれず若手にも重要ポジションを任せる
・部門長を新規分野に出す
人材育成の8割は異動で決まる。適材適所を実現させれば、社員は大きく成長できる。
企業の部署やチームでは、常に全体最適を考えて行動しなくてはならない。そして、全体最適の視点を持つために必要なのが「複数の視点」を獲得する事である。異動によって別の部署に移れば、今までいた部署を外側から見る機会が得られる。
無印の異動の大きな特徴は3〜5年という短期間で移る点にある。絶え間ない異動は、個々のビジネスパーソンにとって多くのメリットがある。
①確実なキャリアアップ
②チャレンジ精神の維持
③多様なネットワークの広がり
④他人の立場への理解が深まる
⑤視野を広げられる
異動をうまく機能させれば、どんな社員でも育てられるし、長く働いてもらえる。
折れない社員に育てる
若者が早期離職してしまう理由は、理想と現実の違いを知る「リアリティ・ショック」にある。現実の会社というのは、一見すると矛盾だらけの中で動いている。また、やりたい仕事があっても、そう簡単にやらせてもらえるほど会社は甘くない。
こういうケースには「現実を前もって知ってもらう」という方法が一番いい。無印良品では、採用の内定者が決まると、店舗でアルバイトをしてもらう。実際に自分が店に立つと、抱いていたイメージと現実は全く違う。立ち仕事、力仕事、お客様からのクレームなど、様々な体験を通して、現実が身に染みていく。
新入社員は「商品の開発をしたい」「海外に行ってみたい」といういろいろな理由で入ってくるが、まずはお店のスタッフとして店舗に配属される。そして、約3年で店長になるよう目指してもらうのが既定路線である。無印良品では「現場の大変さやお客様の声を知らずに本社に入っても、何もできない」という考えを持っている。店長を務めさせる事で、リーダーとしての視点を養ってもらおうと考えている。これは新入社員にとっての修羅場体験にもなる。
仕事は失敗しながら学んでいくもの。失敗をしないような環境を企業やチームが整えてしまっては、いつまでたっても新入社員は育たない。