経営は実行
目標を達成できなかった時、よく使われる言い訳が、CEOの戦略が間違っていたというものだ。しかし、大抵の場合、戦略自体は原因ではない。戦略が失敗するのはきちんと実行されていないからだ。組織に実行できるだけの能力がないか、リーダーが経営環境の中で直面する課題を読み違えたのか、あるいはその両方だ。
実行力が欠如しているため、本来の力が発揮できない企業は枚挙にいとまがない。目標と結果のギャップは至るところにあるが、誰も気づかないギャップが、企業のリーダーが掲げる目標と、その企業の実力とのギャップだ。どんな企業も、あらゆる段階のリーダーが実行のプロセスを実践しない限り、目標を達成することはできないし、変化に対応することもできない。
実行とは何かを理解する上で念頭におくべき点は次の3つである。
①実行とは体系的なプロセスであり、戦略に不可欠である
実行は戦略の基礎となり、戦略を形づくる。実行とは、何をどうするかを厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を求める体系的なプロセスだ。
実行の本質は、コアとなる3つのプロセス(人材、戦略、業務)にある。実行力のある企業は、これらのプロセスを厳密に徹底的に探求している。誰がこの仕事を担当するのか、担当者をどのように評価し、どのように責任を負わせるのか。戦略を実行するには、人材、技術、生産、資金の面でどのようなリソースが必要か。戦略を実行可能な具体的な行動に落とし込めるか。プロセスに関わる人たちが、これらの問いについて話し合い、実態を見極め、具体的な結論を導き出す。各自が実行に対する責任に同意し、その責任を全うする。
②実行とはリーダーの最大の仕事である
リーダーが組織にどっぷり浸かってこそ、その組織は実行力を発揮できる。リーダーは自ら事業に深く関与しなければならない。実行するには、事業、その事業に携わる人材、事業を取り巻く環境を包括的に理解する必要がある。
企業経営者は、各部門のリーダーを選抜し、戦略的方向を定め、業務を遂行するという3つのプロセスを主導することによって、実行に責任を持たなければならない。これらの行為こそが実行そのものであり、他に任せることができないものだ。
③実行は、企業文化の中核であるべきである
実行は報酬制度や社員の行動規範に根付いていなければならない。素早く実行する社員を昇進させ、高い報酬を与えることによって、実行に必要な文化とプロセスを根付かせる。そして、社員もまたこのプロセスを理解し実践しなければならない。
実行の3つのコア・プロセス
①人材プロセス
しっかりした人材プロセスでは、以下の3つのことが実践されている。
- 各人を正確に深く評価する
- 幹部となる人材を見極め、育成する枠組みをつくる
- 強力な後継計画の基礎となる幹部候補の層を確保する
従来の人材プロセスの最大の欠点は、過去に目を向け、現在のポストでの仕事の出来を重視している点にある。重要なのは、明日の仕事ができるかどうかだ。しっかりした人材プロセスには、長期的にどんな人材にニーズがあるかを見極め、それを満たすための行動計画を策定する強力な枠組みがある。その前提になるのが、以下の構成要素だ。
- 戦略計画や短期・中期・長期の中間目標、具体的な業績などの業務計画と結びついている
- 持続的改善、後継者層の充実、離職リスクの低減を通して、幹部候補層を形成する
- 業績不審者の処遇を決める
②戦略プロセス
戦略の中身と細部は、その実行に最も近い人たち、市場やリソース、強みや弱みを理解している人たちの考えを前提に決めるべきだ。戦略計画は、事業部門幹部にとって事業目標を達成するために信頼できる行動計画でなければならない。リーダーは、戦略を策定するにあたり、目標達成に必要なことができる能力が組織にあるのか、どうすれば目標を達成できるのかを問いたださなければならない。
戦略を現実的なものにするには、人材プロセスと連動させる必要がある。戦略の実行の担う職に、適切な人材を配置しているか。配置できていなければ、どうやって適切な人材を確保するのか。戦略計画の具体的な項目は業務計画と連動させ、組織内の各部分が協力して目的地を目指すようにしなければならない。
③業務プロセス
予算プロセスは、どうやって業績を上げるかを検討しないし、時には業績が達成可能かどうかさえ検討しないので、現実からかけ離れている。必要なのは、しっかりした業務プロセスであり、その柱となるのが戦略と人材を結果と結びつける業務計画だ。
戦略プロセスは事業が目標とする行き先を決め、人材プロセスは事業をそこに持っていく人間を決める。そうした人たちに道筋を示すのが業務計画だ。具体的には製品投入計画、マーケティング計画、売上計画、生産計画などがある。業務計画では、現実に即した予算を策定することにより、実行にあたってぶつかる重要な問題に応えていく。