合理的な思考を歪める空気
変われない組織には、なぜか類似する「空気」がある。日本社会に息苦しさを生み出す空気と、個人に自由を許さない共同体原理。『「空気」の研究』の著者、山本七平氏は空気の拘束から脱出するためには、その正体をまず正確に把握すべきだと何度も強調している。
空気には「合理的な思考をゆがめる強力な力」がある。空気が悪影響を及ぼすところでは、公平な意見は遮られ、合理性を基にした判断も差し挟む余地がなくなる。
空気の支配は「この考えに従え」「これを疑うな」「この前提をそのまあ飲み込め」といった強固な圧力を生み出し、日本人を抑圧する。
空気は都合の悪い事実を隠蔽する
「空気」には「ある種の前提」をつくり、そこからはみ出した意見や結論を一切許さない圧力がある。空気に支配された集団は、科学的・合理的思考さえ捻じ曲げて、前提に適合している結論しか受け入れないことで、現実と乖離して狂い始める。
ある特定の支配的な立場にある者が立てた前提(空気)に従わない者を、徹底して弾圧して追い詰めていく。これは、政治集団や利害関係のある企業、コミュニティなどの身近な集団でも起こり得る。空気の支配は意図的な前提を押し付けて現実の一部を隠すことで、集団の問題解決力を破壊する。
空気の醸成は「現実の一部を隠蔽する」影響を発揮する。都合の悪い選択肢を意図的に否定すれば、特定の者に有利な空気を醸成できる。合理的な議論をしているように見せて、空気で集団を操る者が暗躍する。不祥事や悲劇、大失敗が空気を起点に始まる最大の理由は、特定の集団が自分たちの前提に都合の悪い現実を一切無視させて、隠した現実が含むリスクをその他の者たちに知らせないためである。
ただの前提はなぜ巨大な力となるのか
単なる前提がなぜ大きな社会問題を引き起こすほどの巨大な力となるのか。空気の拘束力には3つの要因が影響する。
①臨在感
臨在感とは、物質などの背後に何か特別なものを感じること。臨在感は人が因果関係を推察する習性を起点に生まれる。そして、大抵の場合、恐怖や嫌悪感、もしくは憧れや尊敬といった感情と結びついて理解される。
②感情移入
自分の心や感情が、すなわち現実だと感じること。日本社会では、精神的な安心を優先して「必要な情報さえ隠す」「リスクを過小評価させる」傾向が強い。
③絶対化
ほとんどのことには成立に条件が存在する。絶対化はその成立条件を無視させ、どんな場合でもA=Bとする圧力となる。
どうすれば空気を破壊できるのか
空気を打破するには次の4つの方法がある。
①空気の相対化
あらゆる前提を健全に疑う習慣を身に付ける。○○はAである、といかにも当然のように提示される前提が実際に真実であるか否かを、その前提が成立する条件、しない条件を基に常に考える。
②閉鎖された劇場の破壊
前提に従わない者への同調圧力には、必ず範囲の限界がある。あらゆる劇場には外側があることを常に理解し、外の光を入れるか、劇場を見限り新天地を目指す。
③空気を断ち切る思考の自由
前提となる古い知識や体験が、創造的な発想や選択を不可能にする。前提による思考の拘束を消すため。全くしがらみのない第三者ならば、現状をどう考えるかをイメージする。
④流れに対抗する根本主義
集団の「最も譲れない原点」を再確認し、ある種の前提や既存の流れを打破する。