7つのトレンド
世界は既に大きく変わりつつあり、今後数十年の間にこうした変化はさらに加速して複雑になっていくだろう。これから数十年の間に企業と仕事のあり方に大きな影響を与える7つのトレンドは次の通り。
①商品と労働のグローバル市場のバランス変化
労働人口の分布の変化に伴い、イノベーションや新しいアイデアが生まれる場所も変化している。
②人間と仕事が高度につながった社会
2010年の時点で50億人が携帯電話を所有し、2020年にはその数が60億人を超えると同時に、50億人が約500億台の端末を使ってインターネットに接続し、安価で情報やサービス利用するようになる。
③有能な人材の偏在
どこからでもつながる事ができる時代には、有能な人材が集まる地域が新たに生まれる可能性がある。
④労働の空洞化
技術革新によって数十億人がつながった世界では、自動化や定型業務の海外委託によって、中程度のスキルが要求される日常業務に対する需要が低下する。
⑤スキルギャップの拡大
社会的流動性が失われつつある先進国では、スキルギャップが広がり、若者が高度なスキルが要求される仕事に就く事を一層難しくしている。
⑥貧困と格差
⑦超異常気象
レジリエンスの3つの領域
企業のレジリエンス(困難な状況への適応力)には、3つの領域がある。企業の中核となる1つ目の領域が、従業員が知性と知恵を増幅し、精神的活力を高め、互いの結び付きを深める事ができるような職場環境である。企業のレジリエンスは、社外でも試される。地域の事を考え、サプライチェーンの末端まで配慮した活動が2つ目の領域におけるレジリエンスを形成する。最も外側にある3つ目の領域におけるレジリエンスは、企業がその資源や能力を活用して若者の失業問題や、気候変動といったグローバルな課題に取り組む事によって実現される。
未来を見据えて、この3領域のそれぞれにおいてレジリエンスを強める取り組みを行っているのが、未来の企業のあり方である。
将来にわたって成長し、世界のレジリエンスを高めるような企業を生み出す準備は整っている。今後、世界中の数十億という人々が、数世紀にわたって蓄積されてきた知識に簡単にアクセスできるようになっていくだろう。私達は、少人数のグループの中で、あるいは仮想空間における巨大な群衆の一員として、アイデアを交換したり、生産的に仕事を行う事ができる。
とは言え、未来のチャンスや問題に備えるのはたやすくない。世界を変えるトレンドが絡み合い、複雑な状況をつくり出している。多くの企業経営者は、次の10年間が極めて重要になると考えている。企業経営者の影響が及ぶ領域は、3つの円としてイメージする事ができる。
①社内のレジリエンスを高める
企業の中核となる社内のレジリエンスが失われると、企業で働く人々は目標を達成するための気力も能力も失って、イノベーションを起こす事ができなくなるだけでなく、地域社会に手を差し伸べたり、グローバルな問題に立ち向かったりする事もできなくなる。社内のレジリエンスという核を構築するのは、企業が持っている資産と能力である。特に重要なのは人的資産だ。
②社内と社外の垣根を取り払う
企業は自分勝手に活動できる存在ではなく、地域社会と深く関わっている事を自覚する事を求められている。
③グローバルな問題に立ち向かう
企業は世界全体から影響を受けている。世界規模の問題は複雑で、解決するためには多くの人々の協力が必要だ。
内なるレジリエンスを高める
企業は、イノベーションを起こせる人的資産をもって、社会のレジリエンスの源泉となる大きなチャンスを手にしている。人的資産は「知性と知恵」「精神的活力」「社会的つながり」という3つの形をとる。3つの資質は、絶えず補完し合っている。知性と知恵を増幅し、精神的活力を高め、社会的つながりを生かすために、企業が組織として大きな役割を果たす事も明らかになっている。
問題は、レジリエンスを高める鍵となる人材の育成が難しい事である。仕事は細切れ化してきて、かつてないほどバーチャルなものになりつつある。従業員同士のつながりは薄れ、仕事のペースが速くなっているため精神的に極めて大きな負担がのしかかっている。企業がそれぞれに対応するには、次の方法がある。
①知性と知恵を増幅する
・アイデアを掘り起こす
・オープンイノベーションを活用する
・実験をして認識を深める
・リスク負担を高く評価する
②精神的活力を高める
・働き方を変える
・仕事中に自由時間をつくる
・自然なリズムに合わせる
③社会的つながりを築く
・責務の透明性を高める
・サイバー空間で信頼を高めながら親睦を深める
・コミュニケーションを欠かさない
・思いやりの重要性を理解する