日本酒外交 酒サムライ外交官、世界を行く

発刊
2023年1月17日
ページ数
256ページ
読了目安
258分
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日本酒の現状と可能性
外交官として世界中で、日本酒の魅力を発信してきた著者が、外交における日本酒の歴史や可能性、課題などを紹介している一冊。
輸出が伸び続ける一方で、国内出荷量は減り続け、酒蔵も減少している日本酒業界の課題を取り上げ、どのようにして需要を喚起すればいいのか、局所的な日本酒ブームに終わらせず、日本酒の魅力をどのように広めればいいのかについて書かれています。

外交とは

外交とは、言葉や文化、考え方、政治制度や経済体制などを異にする多くの国々からなる国際社会の中で、自分の国と国民の安全や繁栄といった利益を守っていく仕事である。外交の中で、近年重要性が認識されてきたのが、日本への理解と信頼の促進に向けた取り組みである。文化外交にあたる日本酒外交もその一部である。

文化外交とは、政府が民間とも連携しつつ、対話、交流、広報などの手段で、外国の国民や世論に直接働きかけ、自国への理解や親近感を深め、自国のイメージや好感度を向上させ、自国の存在感を高めること、自国の重視する価値の普及を進めることを目的とする。

 

外交は基本的に国家を代表する政府と政府との間で行われるが、近年、議会、自治体、企業、各種団体、個人など政府以外による国際的な交流が進んでおり、いずれの国でも世論が外交に及ぼす影響が大きくなっている。

文化外交で重要な役割を果たすのが「ソフトパワー」である。日本の伝統文化から、漫画やアニメ、コスプレ、ファッション、アイドルなどのポップカルチャーに至るまで幅広い日本文化の発信が重要である。従来、国際関係では伝統的に軍事力というハードパワーに重点が置かれてきたが、近年はソフトパワーの役割に関心が集まっている。

 

日本酒と外交がくっつくのは、外交において会食が非常に重要な役割を果たしてきているからである。外交の現場では、あらゆるレベルで日常的に会食が行われる。会食の目的は、情報の収集・交換や人脈形成、自国への理解の促進などである。

大使館や総領事館など在外公館によるレセプションやパーティも頻繁に開催される。これらは、政治的・社交的な意味合いが大きいが、多くの人と知り合う機会や特定の出席者と意見交換する機会も提供してくれる。

 

日本酒と外交

日本酒は、外交においてこれまで乾杯に用いられることはあっても、会食やレセプションの主役の酒ではなかった。その理由は、饗応外交の頂点の宮中晩餐会や午餐会で供される料理が伝統的にフランス料理のフルコースだったからである。明治の開国後に外交儀礼を学んだ時に、英国経由でフランス料理が入ってきた。それが現在でも続いている理由は、「世界には様々な国があり、食に関する文化や習慣も様々なので、多くの人に受け入れられるよう、外交の世界では伝統的に受け入れられてきたフランス料理をお出ししている」とのことである。フランス料理にはワインを合わせるので、日本酒の出番はなかったのである。

 

日本酒外交の大前提である良質の日本酒の入手は、海外では容易ではない。パリやロンドンには日本酒も販売する店がいくつかあり、限られた種類だが会食に使える日本酒を扱っていた。但し、海外での日本酒の価格は日本の市販価格の3倍以上だった。近年、日本との市販価格との差はさらに広がっているそうである。

2011年になると、外務省が良質の日本酒を全世界の大使館や総領事館の希望を受けて調達・送付する制度ができた。大使館による日本酒の提供が飛躍的に伸びたのは、この制度のおかげである。

 

外国の方は、日本酒に対する何らの先入観も偏見も有しておらず、自分の舌で味を判断し、旨いものを見分ける。本物の日本酒は世界に通用する。

 

日本酒の現状と課題

近年、多様で高品質の日本酒が造られるようになった。各地で開催される多種多様な日本酒イベントは、常に大盛況である。雑誌やインターネットでも日本酒の記事を多く見かける。しかし、多くのレセプションや懇親会では、日本酒の会を除き、日本酒が出されることはない。ビールとワインが定番で、たまにウィスキーや焼酎が置かれている。

 

日本酒の出荷量は1995〜2021年までほぼ一貫して減少し、最盛期の1973年の1/4にまで落ち込んでいる。酒蔵の数は昭和初期の約7000から1970年には約3500と半減し、2018年には約1400になった。

その一方で輸出は好調である。輸出金額は12年間連続で増加し、2021年には400億円を超えて2009年比で5.6倍増である。海外では明らかに日本酒のファンは増えている。健康志向や和食のユネスコ無形文化遺産登録もあって、最近の和食ブームは新たな次元に入った感がある。これは日本酒への大きな後押しにもなった。

 

とはいえ、日本国内で出荷される全酒類の数量に占める日本酒のシェアは最近は5%を切っており、その約5%が輸出されてきたに過ぎない。日本酒が買えるのは特定国の大都市のみ、それも一部の日本食材店や酒販店にしか置いていない。少数の人しか買えないし、買わないのが実態である。

つまり、日本酒は局地的なブームに過ぎないと言える。日本酒の真の復権のためには国内需要の喚起が重要である。何よりも重要なことは、人々に日本酒の存在を認識してもらうことである。日本酒のユネスコ無形文化遺産登録は、復権の鍵になる。