小売業と製造業を同時に手がけるビジネスモデル
「業務スーパー」を運営する神戸物産は、売上高数千億円という大手食品小売チェーンが積極的に出店を続け、安売り合戦を繰り広げる中、独自の戦略で時価総額1兆円を突破する企業に変貌した。兵庫県三木市で業務スーパー1号店が営業を開始したのは2000年3月。以来、年間30〜40店というハイペースで店舗網を拡大。2022年10月には1000店に到達した。
神戸物産は、1981年に沼田昭二が開業した食品スーパー「フレッシュ石守」が前身だ。生鮮食品はその日の内に売り切る方針の売場面積20坪の小さな食料品店だった。「鮮度が良い」と地域のお客から支持されたが、90年代半ばから激化した競争によって、経営状態は悪化していった。一方、1992年から中国で立ち上げた自社工場で製造した粉わさび、梅干しといった加工食品を、欧米の日本食レストランや専門店へ販売する製造卸売業が好調に推移し、利益の8割を占めるようになった。
これが業務スーパーの原型になっている。小売業と製造卸売業の両方を手がけたことで、新しい事業につながった。自らの商品を製造、コストをコントロールして低価格を実現。それを自店で販売すれば、大手にも負けないビジネスモデルになると考えた。
神戸物産は2000年から、少ない資本でビジネスを広げられるFC形式で事業を展開し、自社がFC本部となり加盟店を募った。業務スーパー各店は、製版一体の仕組みを生かして圧倒的な安さを実現、訴求した。長引くデフレ、景気低迷も追い風となり、コストパフォーマンスの高い商品への需要が拡大し、急速に店舗数を増やしていった。
2008年以降は、「製造業」としての方向性を強く打ち出し、国内にある加工食品、日配品などの食品メーカーを次々とグループ化していった。
一般的に、食品スーパーというビジネスは、売っている商品も似通っているので、差別化が難しい。神戸物産は「製版一体」「製造小売」という独自のビジネスモデルを当初から志向し、その能力を有することが強みとなり、躍進の原動力となっている。
徹底した差別化戦略
「同じ土俵で勝負してはいけない」。これは創業者、沼田昭二が常々、口にしていた言葉である。この考え方は、業務スーパーというフォーマットに反映されている。商品政策では「オリジナリティ」を重要なテーマに掲げ、独自の品揃えを拡充してきた。
業務スーパーの基本的な品揃えには生鮮食品を含んでいない。これは後発だからこその着想である。一部の店舗では、生鮮食品を扱っているが、これは鮮度管理のノウハウがあるFCオーナーの意向で行っているもの。あくまで、加工食品、冷凍食品など日持ちする商材で構成しているのが基本の品揃えである。
「常識にとらわれない」というアプローチも創業者の常套テクニックである。例えば、冷凍スイーツ「リッチチーズケーキ」では、豆腐の容器にスイーツが入っている。豆腐を作る同じ設備のまま付加価値の高い製造品目に変えることで、利益を最大化しようとしている。この商品は、好きな分量を食べられる利便性もあり、大ヒット商品となっている。
創業者は、他の企業とは違う土俵で戦おうと、徹底した差別化戦略を遂行してきた。その結果が、プライベートブランド(PB)が充実する品揃えであり、ロス率の低い効率運営が可能な店づくりだった。これにより業務スーパーは、激しい立地にあっても強い集客力を発揮する。
独自の商品をつくり集める
神戸物産が掲げる商品開発の方針は「オンリーワン」。このテーマは2つの要素に分けることができる。1つ目は圧倒的な「低価格」。業務スーパーで扱うどのカテゴリーにもPBが見られ、同等のナショナルブランドよりも数割安い。2つ目が「クオリティ」。ただ安いだけでなく、一定以上の品質を確保することを重要な要件としている。特にここ数年は高品質な原材料を使用することで、高品質、健康志向の商品も充実を図っている。
神戸物産では約5500アイテムの商品を扱っている。その内PBは、国内のグループ工場で生産する商品と、海外から直輸入したものの2種類があり、アイテム数は合計で1800を超える。
PBの開発を手掛ける商品開発部には約20人が所属しており、内8割の開発担当者が日々、試行錯誤を繰り返しながらユニークな商品を生み出している。どの担当者も、食品スーパーや専門店、トレンドや人気商品を参考にしながら、新たなアイテムを企画、試作している。
もう1つのPBである直輸入する商品は、中間流通マージンを省くことで、仕入れコストを低減、価格に反映している。さらに現地メーカーと直接交渉することで有利な価格を引き出している。