ネットワーク効果とは
「ネットワーク効果」の定義は、「多くの人が使えば使うほど製品の価値が高まる」ことだ。この定義は、電話網やSNS、チャットツール、写真共有アプリ、ファイル共有サービスなどに通用する。友人や家族、同僚、好きな有名人が同じアプリを使っていなければ、そのネットワークはさほど役に立たないか、場合によっては全くの無価値になる。これは製品デザインからマーケティング、ビジネス戦略まで、あらゆる分野に大きな影響を与える。
ネットワークの価値の変化は、初期は時間の経過とともに高まり、中盤は横ばいになって、最後は減少に転じるS字カーブを描く。ネットワーク効果をフル活用するチームは成長の過程で次の5つのステージを通ることになる。
- コールドスタート問題
- 転換点
- 脱出速度
- 天井
- 参入障壁
コールドスタート問題
新しいネットワークのほとんどは破綻する。動画共有アプリを立ち上げても動画コンテンツが集まらなければユーザーは定着しない。マーケットプレイス、SNSをはじめあらゆる製品に同じことが言える。期待するコンテンツを見つけられなければユーザーは離脱する。そして負の連鎖を生む。
こうした問題を解消するには、望ましいユーザーとコンテンツを同時に集めなければならない。だが、それをサービス開始直後に実現するのは簡単ではない。これが「コールドスタート問題」だ。
あらゆるネットワーク製品は、1つの自律する最小のネットワークを築くところから始まる。製品を使い始めても友人や同僚が誰も使っていなかったら、ユーザーは離れてしまう。解決するには、ネットワークの参加者全員が定着する最小のネットワーク「アトミックネットワーク」を構築するしかない。
ネットワークには買い手と売り手、あるいはコンテンツのクリエイターと視聴者など、性質の違うユーザーがいる場合が多い。ネットワークを立ち上げる時に重要なのは、惹きつけるのが難しい「ハードサイド」のユーザーの獲得だ。つまり、重要な活動を担う希少なユーザーをいかにネットワークに惹きつけ、維持するかが大事である。この希少なユーザーを獲得するには、彼らが使いたくなる魅力的な製品を提供しなければならない。
転換点
アトミックネットワークは1つ立ち上げるだけでも大変だが、それだけでは十分ではない。製品を軌道に乗せるには、さらに多くのネットワークを立ち上げ、市場を広げなければならない。幸いなことに、ネットワークを広げていくと、ある時点から追い風が吹くようになる。ネットワークごとの拡大がどんどん速まり、市場を広げやすくなる。
ネットワークの広がり方はドミノ倒しに似ている。ネットワークを1つ立ち上げる度に近接ネットワークの立ち上げが楽になって拡大の勢いが増す。最初の小さな勝利が鍵になる。ライドシェア、職場向けアプリ、SNSなどうまく機能したネットワークの多くは、都市ごと、会社ごと、大学ごとに規模を広げた。SaaSでは、まず社内で広まり、社員が提携先や取引先に紹介することで企業の垣根を越えて広まっていく。
脱出速度
この段階になると高い成長率を維持しようと企業は何千人もの従業員を雇い、野心的なプロジェクトを次々と立ち上げるようになる。脱出速度のステージでは、次の3つのネットワーク効果を強化し、成長を持続させるために猛烈に働く必要がある。
①ユーザー獲得効果
ネットワークが広がるほど、口コミと紹介によるバイラル成長によって、低コストで効率よくユーザーを獲得できるようになる。ユーザー獲得効果は、バイラル成長やネットワークに知り合いを招待したくなるような素晴らしい体験を提供すると加速する。例えば、PayPalのユーザー紹介制度やLinkedinの知り合いレコメンド機能だ。
②エンゲージメント効果
ネットワークが広がると、ユーザー間の交流が促進される。効果を上げるには、エンゲージメント度合いを高めるのがいい。具体策としては、ボーナスの提供、マーケティング、ユーザーとのコミュニケーションの改善、新しい使い方の紹介などだ
③経済効果
ネットワークが広がると、収益を得やすくなり、コンバージョン率も高まる。
天井
製品の成長はやがて「天井」にぶつかり、停滞する時期がやって来る。市場が飽和状態に近づき顧客獲得コストが高騰したり、バイラル成長が鈍化したりすることなどが原因だ。「クリック率低下の法則」も影響する。マーケティングの手法が古くなるとユーザーは離れ、時間と共にエンゲージメントとユーザー獲得の効率が低下する。他にもネットワークが成熟する過程で、スパムや荒らしの横行、過密状態、想定される利用法からの逸脱といった問題が生じる。
参入障壁
最終ステージでは、ネットワーク効果を駆使して競合他社から自社を守れるようになる。ブランド、独自技術、パートナーシップなども参入障壁となるが、テック業界ではネットワーク効果が特に重要である。但し、他社製品も同じようにネットワーク効果を活用できるため、簡単ではない。ネットワークの競争では、機能や戦略の差だけでなく、製品のエコシステムの差が勝敗を分ける。