応援をすることで相手も自分も元気になる
朝8時から、新橋、新宿や桜木町の駅前で、チアリーダーのユニフォームを着てポンポンを持った女性たちが「おはようございま〜す!」「今日も頑張りましょう!」と大きな声で道行く人たちを応援しながら、ダンスをする。それが「朝チア」である。「朝のチアアップ(元気づける、励ます)」という意味である。これは何かの宣伝でも、勧誘でも、仕事でもない。ただ朝早くから道行く人たちを勝手に応援している。
朝チアを始めたのは2010年。たった1人で朝チアという活動を始め、続けていた齊藤彩さんに仲間に入れてもらい、主に新宿駅前で活動してきた。足を止めてもらえなくても、視線をもらえなくても、気にしない。しかし、ほとんどの人が前を通り過ぎる中、たまに足を止めてくれる人がいる。「見ているよ」というように、手でサインを送ってくれる人もいる。中には、わざわざ歩み寄って、言葉をかけてくれる人もいる。たった1人に応援が届くだけでも心が動く。
本当に落ち込んだ時、「頑張れ」と言って欲しくない時がある。朝チアは、いつも元気で明るく、前向きに頑張りパワーを送るキャラクターだが、決して押し付けないように気をつけている。「誰かを応援することは、誰かを想うこと」「その人を応援することは、その人を想うこと」である。
そう考えれば、普段からできることとして、朝の挨拶も立派な応援である。「おはようございます! 今日も頑張りましょう」と声をかけることだって応援になる。相手が何も言って欲しくない時は、「そっと隣で見守っているよ」「ただ、そばにいるよ」と想うのも応援である。応援にも色々な形がある。
ただ、一番大切なことは「その人のことを想うこと」それ自体が応援である。応援は日常生活の中に普通にあって、人とのコミュニケーションで大切なものである。
応援は人に対してするものだけでなく、自分に対する応援もある。「自分はできる」「1日頑張ろう」「大丈夫」という気持ちを常日頃から心に持ち続けて、言い聞かせることも応援の一種である。自分を応援することが、自分を奮い立たせ、前向きに動かす力になる。応援は自分が一歩踏み出す力になる。
応援は誰でもすることができる。立派な応援をしようと、身構える必要はない。むしろ、気軽にできるところから試してみるといい。応援をすることで、何より自分自身の心が変わっていく。人に喜んでもらうことが、自分にとって嬉しいことだと思えるようになる。
朝チアで出会う人たちのおかげで、朝チアの持つ「応援の力」を実感してきた。ただ、自分がやりたくてやっていただけなのに、人に喜んでもらい、自分もまた感動して元気になれるという「応援の力」は、応援する人とされる人の「心の循環」である。
なぜ「朝チア」にたどり着いたのか
地方の女子高校生が、アナウンサーになりたくて東京に出てきて奮闘するも、入社試験で70社に落ち、地方局でやっと契約アナウンサーになるも1年で契約終了。その後のオーディションも落ちまくり、身も心もボロボロになっていた時に、一筋の光を差してくれたのが「朝チア」だった。
朝チアは、2009年に齊藤彩さんが1人で始めた。『1500人で夢を叫ぶ』というイベントの手伝いで、「自分の足で誰もやっていないやり方で、人に情熱を伝える」と、毎朝駅前で想いを叫び続けた結果、応援してくれる人が徐々に増え、イベントは大成功。それをきっかけに、自分の姿を通し、なかなか一歩を踏み出せない人の「勇気」や「元気」になれたらと思い、1人、新宿駅前で応援するためにチアユニフォームでダンスを始めた。
ひょんなことから、齊藤さんの活動を知り、2010年6月17日の朝、新宿駅西口を出てすぐのところにある小田急ハルクの前で、齊藤さんのパフォーマンスを見た。そして、その応援が自信をなくして腐っていた心を揺り動かした。そして、全日本女子チア部☆の新入部員になり、朝チアの活動を始めた。
「朝チア」で見知らぬ人たちを応援することで、どん底だった心は少しずつ甦り、自分自身が「朝チア」に支えられていることに気付かされた。応援することは、応援されることだと気づいた。
2015年に齊藤さんが卒業してから、1人で新宿や新橋の駅前で朝チアをするようになった。そして、新たなメンバーが加わって、今は10名ほどで活動している。
目の前を通り過ぎる人たちを応援することを続けてきて、つくづく思うのは、応援すれば応援が返ってくるということである。誰かを応援することで、自分自身も応援されていることを感じることができるようになる。そして、応援された相手がまた別の人を応援することで、応援がどんどん連鎖されていく。そんな「応援の輪」が広がる未来をつくりたい。