ビジョンを実現する方法
思想家ピーター・カーニックはビジョンを実現する方法について何百人ものクリエイティブな人と対話し、人の活動に関する新しい視点をつくり上げた。
その核となっているのが、組織そのものではなく、その奥にある「アイデアを実現するという創造的なプロセス」に焦点を当てること、そして、そのプロセスにおいて1人の人物が特別に持つオーサーシップや責任「ソースの役割」を認識することだ。
カーニックは、この考え方を長年にわたって探求し、社会的なムーブメントからクリエイティブなプロジェクトに至るまで、人間のあらゆる活動に共通し、根本的で普遍的に思えるダイナミクスを解き明かした。彼の提唱する「ソース原理」は、実現するビジョンと立ち消えいくビジョンの違いを理解するのに役立ち、うまくいっていない活動に介入する際の手がかりとなる。
ソース原理
私たちは誰にでも、クリエイティブな力を自分の中から呼び覚ますポテンシャルがある。カーニックはこれを「ソース」と呼ぶ。ソースたる人は、まだ存在しない未来を思い描き、それを現実化させる人間の素晴らしい力を発揮する。
ソースは、貧富や職業を問わず、世界中どんな場所にも存在する。ソースとは活動家であり、コミュニティ・オーガナイザーであり、アーティストであり、真の起業家である。誰の中にも存在するソースを呼び起こし育んでいくことで、大胆なアイデアを思い描いて実現させることができる。
私たちはインスピレーションを得て、創造の壁を乗り越え、作品を世に送り出すことができる。しかし思い描くことのスケールが大きくなっていくと、自分1人の創造性では追いつかなくなるため、多くの人と力を合わせていく必要が出てくる。このような何かを創造するための協力関係を築くプロセスとして考えられるのは、ビジョンを持った英雄的なリーダーによって率いられる組織か、多くの人によって共に創られる参加型の組織だ。ソース原理に沿った組織は、その両方の上に築かれ、発展していく。
ソース原理に基づく経営や運営は、2つの核となるコンセプトから始まる。これは、どんな規模の組織でも共通する基本的なプロセスへとつながる。
①ソースの役割
社会的なムーブメントから企業、舞台芸術の創作に至るまで、人間のあらゆる営みを検証すると、1人の個人が重要な役割を担っている。それが「ソースの役割」だ。ソースの役割は、1人の個人が傷つくかもしれないリスクを負いながら最初の一歩を踏み出し、アイデアの実現へ身を投じた時、自然に生まれるものだ。
ソースは「イニシアチブ」と個人的で特別なつながりを持っている。イニシアチブとは、アイデアが最初の一歩を踏み出してから、実現していく一連のプロセスのことだ。ソースはそのイニシアチブが何を必要としているかを直観的に感じることができるし、「オーサーシップ」(自分がこのイニシアチブの執筆者であるという感覚)を自然と持っている。
ソースの役割は何世代にもわたって継承することは可能だが、その場合は常にある1人から別の1人へと受け継がれる。継承がうまくいけば、新しい世代によってイニシアチブの持つ価値観や世界観も維持され、ビジョンも発展していく。
②クリエイティブ・フィールド(創造の場)
ビジョンを実現するために人が集まると、私たちは自然と組織について考え始める。あらゆる組織の根底には「クリエイティブ・フィールド」と呼べるものがある。ビジョンの実現に必要な協力者やリソースを引き寄せ、各自の貢献を束ねて一貫性を生み出す重力場と、ビジョンの実現に向けて一緒に行動していける草原や放牧地のような物理空間の2つを合わせた場のイメージだ。
ソースの役割を担う人とクリエイティブ・フィールドとの関係は、特別で唯一のものだ。それに自覚的になれれば、クリエイティブ・フィールドをうまく認識して機能させることができる。組織をクリエイティブ・フィールドとして捉えることで、新しい組織づくりや働き方の実験が成功しやすくなる。
ソース原理を創造活動に活かすプロセス
ソース原理を創造活動に活かすことは、順序立てられた導入プロセスがあるような、いわゆる科学的な理論ではない。それは、物事に対する見方、行動の仕方、解釈の仕方、意味付けの仕方の1つだ。
①ソースである自分から始める
周りを巻き込むイニシアチブに意識を向ける前に、まずは自分自身と奥底から深くつながる。
②イニシアチブのソースを特定する
まずソース役を担う人物を探すことで、クリエイティブ・フィールドに波長を合わせる。
③ソースやサブソースとしての役割へ踏み込む
クリエイティブ・フィールドにおける自分の立ち位置を認識し、その役割へ意識的に踏み込む。
④フィールドマップをつくる
フィールドマップをつくることで、公式の組織図に表れづらい、全体のソースからサブソースへとオーソリティ(オーサーシップを持つ人が周囲に自然と与える影響力)が流れ伝わっていく様子を理解する。
⑤サブソースを支援する
フィールドマップを共有し、サブソースが自ら担う役割を自覚し、その役割を発揮することを支援する。
⑥ソース原理を組織づくりと規模拡大に活かす
組織マネジメントに関わる活動にソース原理を織り込む。
⑦ソースを継承するか、イニチアチブを閉じる