Web3の本質
Web3はブロックチェーンと呼ばれる技術を使ったサービスの総称と定義される。これまで、既存のシステムで情報を管理しようとすれば、何らかの形で全体を管理する存在が必要だった。ブロックチェーンを使えば、ネット企業あるいは国家のような特定の存在なしに、データを正確に記録できるようになる。
Web2とWeb3の最大の違いは、中央集権か非中央集権かにある。パワーがテック大手のようなごく一部の企業にあるのか、ユーザーにあるのかがWeb2とWeb3の違いであり、Web3はパワーがユーザー側にあるというパラダイムだ。この分散型への移行によるインターネットの中央集権から非中央集権へというパラダイム、価値観の変革がWeb3の本質である。
デジタルデータが増えるWeb3時代にはAIが必須
2010年代以降、Webと同様の変革を与えてきたのがAIである。特に重要なのは「AIのぐるぐるモデル」だ。AIのぐるぐるモデルは可能な限りすべてのバリューチェーンと顧客のデータを集めてAIを活用する。多くのデータを集めることによりAIの質が高まり、質の高まったAIへの利用が増えると、効果を期待して新たなデータが集まり、さらにAIの質が向上するループが起こる。この繰り返しの中で指数関数的に企業が創造する価値が伸びる。
Web2.0時代、ビッグテックが急拡大したのも、ユーザー参加型のWebから集まるデータをAIで分析できたからだ。AIのぐるぐるモデルが機能し、凄まじい速度での成長を牽引した。AIのぐるぐるモデルは、ビッグテックやAI企業だけが活用できるものではない。成長し続けたいならAIのぐるぐるモデルを活用する企業になるしかない。
Web3の時代には現在よりも圧倒的に多くの情報がデジタル化される。DAOやNFT、SBT、メタバースでのやり取りはすべてがデジタルデータである。Web3の領域が広がるほどAIの精度を上げるデータが増える。NFTやSBTが一般化すれば、AIの分析対象になる構造化データだけでなく画像などの非構造化データも入手しやすくなる。スマートコントラクトの機能によって、規約への同意やAIでの分析への連動を自動化することも可能だろう。
逆にメタバースの領域を中心にAIによって加工されたデータが、その内容をさらに豊かに変えていく可能性もある。リアルタイムの自然言語処理と機械翻訳が実用化すれば、メタバースは言語の壁を超える。画像認識技術でより高度な情報を含めた映像が共有できるようになる。こういった技術によって、リアルの世界を超えた各種の判断が可能になるだろう。
Web3で実現しようとする多くのサービスにはAIが必須になってくる可能性が高い。これまでのブロックチェーンでは、誰がどの暗号資産をどの程度保有しているのかという数値やテキストのデータの扱いが主体だった。これに対してWeb3のスマートコントラクトによるプログラムなどの実行時には、動画や画像なども扱うようになることが想定されるからだ。
Web3の世界でAIを使って成長するにはどういったモデルが望ましいか
トークンエコノミーの著者ヴォッシュムギア氏は「将来のインターネットが非中央集権に向かっていることは、ほぼ間違いない。しかし中央集権システムがすべて淘汰されることはないだろう。特定の用途においては中央集権システムの方が優れているから」と語っている。
すべてを非中央集権的なやり方で設計し直すのではなく、中央集権的な仕組みと、非中央集権的な仕組みを使い分けるべきである。
Web2.0とWe3は、ユーザーに与える価値の推移の形が逆だ。Web2.0の世界では時間の経過と共にユーザーの受け取る価値が増えるが、Web3の世界では、より早くよりスタート時点に近いほど、1人のユーザーが享受するメリットが多くなる。
Web3でスタートと同時にユーザーへのメリットを提示しサービスを確立させ、ある程度、利用者が増えた時点で、Web2.0のぐるぐるモデルの手法で利用者の増大がメリットの拡大につながるモデルに変えていく。
これまで多くのスタートアップが製品やサービスは優れていても、利用者を増やせずに消えていった。Web3の手法なら、広告やマーケティングに費用をかけなくても、金銭的価値というインセンティブで最初から一気にユーザーを増やせる可能性がある。
Web3の集客力が弱まってきた時点で、Web2.0のネットワーク効果やAIの正のスパイラルという価値創造の力に切り替える。Web3の力で利用者を増やし、当初から大量のデータを集め、Web2.0のモデルにシフトし、継続的にAIのぐるぐるモデルを機能させる。
個々の企業はこのモデルを追求していくことになるが、Web2.0時代との違いは、データは個人が所有するという点だ。企業は個人ユーザーに対してデータの使用料としてトークンを支払うことになる。