なぜあの会社は100年も繁盛しているのか

発刊
2015年1月21日
ページ数
255ページ
読了目安
275分
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老舗の経営において大切なこと
老舗が繁盛している秘訣とは何か。様々な老舗を取材し、老舗の経営にとって大事なことをまとめている一冊。

老舗とは

老舗は創業100年以上存続している会社や店のこと。日本にある老舗の数は、調査機関の発表によると約2万6千社、学術研究の発表では約5万社と言われるが、帝国データバンクの調べでは、現存企業数に対する老舗の比率が約2%である事から、約10万社も存在すると推定できる。これらの中には、200年、300年と永続繁盛している老舗も数多い。

 

駅伝たすき経営

老舗の経営者には、先代達の築き上げてきた伝統を考えると、事業を勝手にやめる事ができないという意識が強い。老舗の経営者というのは、先代から、たすきを引き継いだ後、次代にそのたすきを渡すまで、懸命に走り続ける駅伝ランナーみたいなものだ。苦しくても、勝手な途中棄権は許されない。しかも、駅伝とは異なり、あらかじめゴールの設定がなされていないレースである。

「後継候補が見当たらない」「承継はもう諦めている」といった経営者の悩みを良く聞くが、こうした問題を何代にもわたって乗り越えてきたのが老舗である。

 

後継者づくりこそ最大の仕事

金剛組は、神社仏閣の設計・施工、城郭や文化財建造物の復元・修理などを主に手がけている建設会社である。創業は578年で、最古の企業と言われている。金剛組がなぜ長い歴史を生き延びてきたのか、その要因は4点にまとめられる。

①四天王寺のお抱え棟梁の地位にあり、生活が保障されていたこと
②社寺建設というニッチマーケットに特化してきた事で、営業の効率が良かったこと
③宮大工集団の高度な技術を維持してきたこと
④宮大工達が技術の外部流出を防ぎ、顧客秘密を守ったこと

金剛組が、1400年生き延びてきた要因には、後継ぎの選び方及び金剛組の教えの承継が特に大きいという。

①血縁を最優先するのではなく、人の上に立つだけの実力と器を持ち合わせている人物を後継者に選ぶ
②金剛組の家訓、理念が文書の形で、きちんと受け継がれている

 

家と事業の承継を両立させる

日本に老舗が多い理由に、伝統的な「家」制度の存在、あるいは大半の日本人が「家」概念を共有している事が挙げられる。実際「血縁」よりも「家名」「家督」「暖簾」が大事という「家」を守る「家伝」の考え方、掟、仕組みが商売の世界で幅を利かせてきた。

 

ただ、今日では戦前と比べて承継環境が大きく変わった。かつては「家」の方針を同居する家族ですり合わせる事ができたが、核家族化の進行により、特に祖父母から孫への口伝教育が困難になった。一方、後から入ってきた「嫁」「婿」の考え方が幅を利かせるようになる。その結果、子供は事業を継いでも、「家」のしきたりや伝統などを忠実に承継する事に対する意識は薄れてきた。後継者となる人達は「家」の相続・家伝と「会社」の承継・社伝をいかに両立させるかが課題となる。

 

己の分を知って成長点で止まる

立派な木姿となるには「剪定」が必要である。事業構造改革などを通じて新陳代謝に取り組む事が重要である。単に大きくなればいいのではない。「木づくり剪定」の考え方が、老舗の経営には不可欠である。

①根張り:自力で根の先から栄養、経営資源を吸い取る
②下刈り:成長を妨げる雑草等をとる。現場の風通しと見通しをよくする
③葉刈り:事業戦略と商品ラインの陣形整理、進出と撤退の選択と集中
④成長点止め:分相応の成長を知って、業界市場の中での収まりを大切にする
⑤間伐、移植:グループ内のリストラや業界内の統合再編
⑥接木:新しい業態業種への転換や第二創業、M&A
⑦肥料:過剰投資、過当競争、不相応な賃金を避ける
⑧循環共生:バリューチェーン、ステークホルダーとの関係において循環共生を図る

 

中小老舗の事例は、眼と耳が利く距離、手と気が届く範囲が経営の基本である事を教えている。むやみと拡大を狙ってはいけない。

 

老舗経営の鉄則

①老舗の経営者は駅伝のたすきの「繋ぎ役」である
②老舗の承継は「たすき」の中身(伝統の教え、家訓、経営理念)で決まる
③「家」相続・家伝と「会社」承継・社伝は不即不離である
④承継の意思決定は世の道理にかない、人の情に添う事である
⑤暖簾は自分のものであって自分のものではない、引き継ぐものである
⑥暖簾にあぐらをかいてはいけない
⑦新陳代謝でしっかりした木姿を整える
⑧己の分を知って成長点で止まる
⑨ありたい姿を想定し、剪定でよい木姿を目指す
⑩イノベーションは技術だけでなく、サービスや業態にもある
⑪業界の川上・川中・川下に学び、小さな変化の予兆を発見する
⑫跳ぶ時は跳んでみせる
⑬番頭・女将は私心を捨てて「ならぬものはならぬ」と諫言する
⑭番頭・女将はあくまでサポーター、補佐機能を担う
⑮家訓・経営理念は飾りものではなく、社会への決意表明である
⑯家訓・経営理念の承継に相続税はいらない
⑰老舗も集まれば力となる
⑱地域社会のシンボルとして、日々の品行も恥ずかしくないよう努める
⑲地域おこしに役立つ必要がある
⑳「老舗の形体」を繰り返していく守成が老舗経営の奥義である