顧客理解こそが経営で最も大切なこと
経営が顧客の心理を把握し、自社の投資活動や組織活動を行うにあたって、常に顧客を理由に意志決定している企業が成長している。この経営のあり方が「顧客起点の経営」である。
どんな時代においても、売上を伸ばす企業に共通するのは、顧客が「価値」を見いだす自社プロダクトの便益と独自性を強化し続け、一方で、潜在顧客にとって新たな「価値」となる便益と独自性を提供するプロダクト開発を模索し続けていることである。
- 便益:顧客が買う理由(顧客が実際に受け取る利益や利便性)
- 独自性:顧客が他のプロダクトを買わない理由(代替の利かない唯一無二の特徴)
そのために経営は次の3つの観点において、顧客を理解する必要がある。
①顧客の心理(顧客の行動の理由)
なぜ買ってもらえたのか、商品やサービスを実際に購入し体験してどう感じされたのか、その価値をどのように判断されたのか。これらの問いに対する答えは、すべて顧客の心の中にある。
②顧客の多様性
どのようなプロダクトでも、複数の異なる顧客層に価値を見出してもらうことが可能である。どのようなプロダクトでも、価値を創りうる便益と独自性は1種類ではない。複数の顧客層の満足を高め続けることで、事業成長している。
③顧客の変化
顧客の心理は固定ではなく日々変化しており、結果として行動も変化している。これらの変化が見えていなければ、次の潜在顧客が誰なのかわからず、闇雲に投資することになる。
顧客起点の経営への3つのフレームワーク
①顧客起点の経営構造
上から順に、経営対象、顧客心理、顧客行動、財務結果の4つのブロックで成り立っている。どのような事業においても、経営活動は顧客の心理状態に影響を与え、その顧客の購買行動を変え、売上や利益という財務結果へと導く。
経営対象
-
- 新規顧客の獲得
- 既存顧客の維持・育成
- 上記を支えるすべての組織活動
顧客心理
-
- 顧客(WHO)が
- プロダクトの便益と独自性(WHAT)に価値を見出し
- 購買意向を形成する
顧客行動(顧客数 × 単価 × 頻度)
-
- 顧客数の増減
- 新規、流出、復帰
- 購買対象、単価、頻度
財務結果(売上 – 費用 = 利益)
顧客起点の経営構造のフレームワークを共有し、今行なっている会議や議論が、顧客の何に影響することを目的にしているのか確認することで、意味のない議論を避け、顧客起点の意識を共有できる。
②顧客戦略(WHO&WHAT)
誰に(WHO)、何を(WHAT)提供すれば価値が生まれるのかを明確化し、施策に落とし込んでいく。商品やサービスであるプロダクト自体には「価値」はない。プロダクトが提案する便益と独自性を、自分自身にとって価値があると顧客が認識して初めて「価値」が生まれる。
顧客戦略は、自社プロダクトが提供する便益と独自性に、顧客が「価値」を見いだす組み合わせである。
- 便益あり×独自性あり:価値
- 便益あり×独自性なし:コモディティ
- 便益なし×独自性あり:ギミック
- 便益なし×独自性なし:資源破壊
目指すべきは顧客にとって便益と利便性がともに強い、すなわち「価値」が成立することである。高い「価値」を認めた顧客から、徐々に潜在的な多くの顧客へと認知が拡大するため、売るための投資負担へ少なくなる。
顧客戦略の目的は、高い投資対効果で、以下の5つのセグメントの顧客を自社プロダクトの購入と継続購入に導き、収益性を継続的に高めることである。価値を生み出す顧客戦略を明確にし、組織内で部門横断で共有することで、組織全体の活動に一貫性と効率性をもたらす。
③顧客動態(カスタマーダイナミクス)
マーケット全体の顧客の動き(変化)を把握する。マーケット全体の顧客数を100%として、次の5つに分類する。
- ロイヤル顧客
- 一般顧客
- 離反顧客
- 認知未購買顧客
- 未認知顧客
この5つのセグメントを動態で捉え、顧客の動きを可視化する。
- 潜在的なロイヤル化顧客(一般顧客のロイヤル化、ロイヤル顧客のさらなるロイヤル化)
- 潜在的な復帰顧客(離反顧客の復帰)
- 潜在的な新規顧客(認知未購買顧客の新規顧客化、未認知顧客の新規顧客化)
- 潜在的な離反顧客(一般顧客、ロイヤル顧客の離反)
これら4つは並行して投資対効果を高め続ける必要がある。そのために、カスタマーダイナミクスを可視化し、各々異なる顧客動態に対応する顧客戦略(WHO&WHAT)を洞察することが重要である。