無意識を働かせて取り組むことが重要
物事に没頭し、食事も忘れて時間が経っていた結果、後になって集中していたと実感するのが真の集中である。本当に集中できる人は集中なんて考えていない。なぜなら、無意識で目の前の物事に取り組んでいるからである。反対に物事を意識すればするほど、集中からは遠のいていく。
私たちの行動はほとんどが無意識で行われている。いかに無意識を働かせて取り組めるかが集中の鍵である。
大脳皮質のネットワークは大きく3つに分かれる。
- ワーキングメモリーネットワーク(WMN:作業記憶)
- デフォルトモードネットワーク(DMN:基本状態)
- セリエンスネットワーク(SN:顕著性、ハッと覚める)
WMNは意識的な作業を行う。WMNが活動しない時にはDMNが動いている。つまり無意識モードである。SNが働くと、DMNからWMNに切り替わる。
DMNは、思考や感情を生み出す部分mPFC(内側前頭前野)、WMNは意識を司るdlPFC(背外側前頭前野)という脳の部位が動いている。外界、体に異常があると、危機対応を指示するためにSNを起動して、DMNからWMNへ切り替えて、dlPFCに気付き、意識を起こす。
意識を司るdlPFCは使いすぎるとブレインフォグ(脳霧)を起こす。その結果DMNの活動が活発化し、不安、抑うつ、やる気の消失などの感情障害を伴う。DMNの抑制ができなくなって、「ぐるぐる思考」と呼ばれるたくさんの思考が浮かんでは消えて、制御できなくなる。
集中を阻害するものを排除する
集中力を高めるには、dlPFCを強化するのではなく、集中を分散させるものをいかに排除するかが重要である。つまり、集中力はフォーカスする能力を高めるより、集中を阻害するものをできるだけ排除することによって獲得できるのである。
- 机の上には勉強道具以外は置かない
- デスクに置くのはパソコンだけ
- 画面上も必要なファイルだけを開く
- メールやSNSの通知は切る
- スマホも手の届かないところに置く
集中するための基盤は、環境を安心安全と認知していることである。異常を感知するとSNによってDMNからWMNへのスイッチングが行われて集中が途絶える。
思考を適正化する
事実世界には色も音も存在しない。その事実世界を実体のあるものとして、認識するのが「わたし」である。「わたし」がどう解釈するかが現実世界である。現実とは事実の個人的解釈でしかなく、人それぞれが生きている現実は違う。
事実世界を認識する「わたし」とは、それぞれが持つ価値観(ルール)である。私たちは現実に対して、他人を変えようとしがちだが、自分を変えれば、自由自在に新しい現実をつくり出していける。しなやかで柔軟な価値観を持つことで、思考の質を上げていく。これが集中にもつながる。思考の質を上げるためには、2つのことが必要である。
- 自分が持っている価値観を確認する
- そのルールを修正、適正化していく
多様な価値観に接するほど、自分の価値観は明らかになるし、成長する機会も多くなる。先人の価値観を学び取ることも正しいルールを身につける近道である。
マインドフルネスで集中脳をつくる
dlPFCによる注意・気付きを使って、DMNを制御する方法がマインドフルネスである。本来WMNとDMNは同時に動かない。マインドフルネスは、WMNとDMNが同時に動く唯一の脳機能の状態である。
WMNであるdlPFCを使って、脳内の各所の探索を行うと、dlPFCの機能がDMNを抑制していく。その結果ぐるぐる思考がなくなり、集中できるようになる。
セロトニンを増やすための生活習慣を行う
脳では神経伝達物質であるノルアドレナリンが増えると「ホットな覚醒」、ドーパミンが増えると「幸せな覚醒」、セロトニンは「クールな覚醒」を起こす。脳内でセロトニンが最も減りやすいのは扁桃体と眼窩前頭前野である。
最新の心理学、社会構成主義的心理学では、セロトニンが欠乏しやすい扁桃体と眼窩前頭前野が気分・感情を生み出すとされている。ここが不安定になると、抑うつ、不安や怒り、疲労感などの感情が生み出される。逆に充分なセロトニンがあると気分、感情は安定し、クールな覚醒、つまりパフォーマンスの高い集中脳になる。
セロトニンを増やすためには、以下の生活習慣を取り入れるといい。
- 1日30分以上、太陽の光を浴びる
- 笑うことでセロトニンを出す
- 5分以上、30分以内で淡々と行える散歩などのリズム運動をする
- 人や動物と心地良い触れ合いをする
- セロトニンの原料であるトリプトファンが豊富な食品を摂り入れる
(バナナ、大豆製品、卵、ナッツ、ごま類)