ローリング・ストーンズとは
ロック・バンド、ローリング・ストーンズは1960年代という激動の時代に、ロンドンのブルース好きの不良少年たちによって結成された。「一発屋」と思われたものの、やがて社会現象となり、いつの間にか世界最高のロック・バンドとなった。ストーンズは、2022年7月にデビュー60周年を迎える。
ストーンズは60年代には、ビートルズと人気を二分した。音楽的には、ビートルズがロックンロールを起点にポピュラー音楽の未来を築いたのに対し、ストーンズは黒人ブルースにこだわり、泥臭くブルージーなロックンロールで人気を博し、その持ち味は60年間変わっていない。
世界中に大きな影響を与えたストーンズは、現在まで2億枚以上のアルバムを売った数少ないロック・バンドの1つである。
ストーンズのボーカリストであるミック・ジャガーは、アーティストとしての名声、社会的地位、お金など、すべてを思うがまま手に入れ、もうすぐ80歳という今でも、バリバリの現役で、老若男女問わずファンを魅了し続けている。
ミックは80歳を前にして、未だに世界一のフロントマンとして活躍し続け、私たちに「これからの働き方」についての示唆を与えてくれる、究極のロール・モデルでもある。ミックは常に「今が最盛期」な生き方を続けている。これこそ、過去の成功体験が生きなくなっている現在、私たちが見習うべき働き方ではないだろうか。
ビジネスの「切り盛り」を楽しむ
ロックスターの仕事は、多くの人に憧れられるし、成功すれば実入りは驚くほどだ。しかし、いいことばかりの夢のような仕事ではない。そして、それは他のどんな仕事とも同じように、やがて飽き飽きしてくるものである。実際、ロックスターという稼業は、長生きできない職種として知られている。
それだったら、楽しむしかない、ということだ。そして、楽しむ者だけが生き残れるのがロック・ビジネスだ。ミックの最大の強みは、自分とチームのメンバー、ファンに「楽しみ」のカンフル剤を打つことができることだ。ミックが元気よくステージを走り始めるとメンバーはそれに引っ張られるように演奏にのめり込んでいく。ファンも、ステージを走り回り、ハーモニカを吹き鳴らすミックを見ていると、楽しみに満たされる。
この仕事を「楽しむ」ということは、今のビジネス界で重要なキーワードとなっている「エンゲージメント」の最重要ポイントだ。「エンゲージメント」とは、組織や仕事と感情的なつながりを感じ、当事者意識を持って仕事を楽しむことを意味する。エンゲージメントが向上すると、その組織の業績が上がるということは、多くの研究で実証されている。
どんなに遅くまでパーティを楽しんでも、翌朝9時にはスタジオに入って仕事を始める。そんな働き方で知られるミックだが、それができるのは仕事が楽しいからだ。そのように忙しくしながらも楽しんでいる状態が「エンゲージしている状態」である。
そして、「音楽を楽しむだけでなく、ショービジネスも楽しむ」。これがミックの仕事に対してのエンゲージメントの表れだ。これができないから多くのバンドは長続きしないのだろう。ミックは、アーティストでありながら、ビジネスに実際に手を下す。ビジネスの奥深さを知っているミックは、自分でビジネスを「切り盛り」することを楽しんでいるのだ。
時代に関わり続ける
ミックは多くの偶然を引き寄せ、ストーンズは大成功した。同じ時期にビートルズが台頭したことも良い偶然だった。ビートルズに刺激されながら、彼らを追いかけながら、自分たちも大成功し、彼らと対等に張り合うことになった。
スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した「プラント・ハプンスタンス理論」は、ビジネス上の成功の8割は、明確なゴールから生まれたわけではなく、予期せぬ偶然の積み重ねによって成り立っている、という理論である。この理論によると、偶発性を受け入れるだけでなく、自ら偶然の出来事を「引き寄せる」ことが成功のためには重要だとされている。そのために求められる性質は次の5つ。
- 好奇心:「違ったことをやるのが好きなんだ」と語るミックは好奇心の塊だ
- 持続性:ストーンズは粘り強く持続した
- 柔軟性:ミックはブルースに縛られずに、時代に合わせてダンスを踊るようにいろいろな分野で活動した
- 楽観性:ミックはとてもポジティブな人物だ
- 冒険心:ミックは常に、誰もやったことのないことをやろうとし、ロックの常識を覆した
さらにミックには、これらの性質を成功に繋げる2つの行動様式を持っていた。
- 行動に熱中することで、自分の強みを発見する
- レレバント(時代に呼応している)である
どんな時代に生きていても、売れ続けるためには同時代性が必要だ。どんなに才能があっても、その時代に求められないものは評価されない。ミックは、怒れる60年代がわかっていたから、音楽でそこら中のつまらない既成概念を破りまくった。だからこそ、熱狂を持ってファンに迎えられた。