経済成長をし続けているうちは現政権は揺るがない
習政権は中国共産党創立100周年の式典で、コロナの封じ込めや貧困の撲滅、小康社会(生活にややゆとりのある社会)の実現に努めてきたことをアピールした。最終目標は、中華人民共和国設立100年となる2049年までに、経済や科学技術を発展させ、軍事力も高めて、名実ともに米国と肩を並べ、「社会主義現代化強国」を実現して「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げることだ。
中国国内では、2022年秋の共産党大会で習政権が異例の3期目に突入することが有力視されている。「共同富裕」(ともに豊かになる)というスローガンを掲げた政権は、ますます求心力を高めているように見える。
事実、若者世代を中心に、中国への圧力を強める米国に対する反感が高まっている。しかし、若者に限らず、SNSなどを見る限り、主要国を蔑み、侮る中国人もいるが、一皮むけば、国民の思いは様々で、冷めた目で自国を見つめる人もいる。大括りでは「政権支持派」と「政権不支持派」に属する人の中にも多様な意見がある。
特に海外との接点の有無は、中国人の考え方や視野に大きな影響を与えている。国内にいると、中国のメディアの影響を受けるので、「中国は西側からいじめられている」という被害者意識が強くなる。
元々、中国人は井戸端会議が好きで、政治について話している人も多かった。SNSが発達した2014〜2015年頃からは「リアルな井戸端会議の場所が移動しただけ」と言われるくらい、ネットで政治談義にも花を咲かせていた。しかし、それもコロナ禍以降、習氏の求心力が高まって、この1〜2年ですっかり消えた。単なる政治談義のつもりでも、身の危険につながりかねないという。
重苦しい空気になっているという声もある反面、現政権を支持する声はかなり大きい。たとえSNSで政治に関する意見を堂々と言えなくても、日常生活で経済的な豊かさを実感する機会が増えていることに満足している人が多いからだ。政権を支持する理由としては、コロナの感染拡大を防いだ功績が国民の間で広く共有されていることが大きい。
「少しずつでも、国が経済成長し続けている間は、現政権への支持は揺らがない。中国のリーダーは選挙で選ばれたわけではない。だからこそ、経済成長し続け、国民を満足に食べさせていくことが一番大事。それができているうちは、政権は安泰だ」と言われる。
格差問題の解消を目指し、国民の不満を和らげる
2021年、政府は「共同富裕」の方針を発表した。「共同富裕」とは貧富の格差を是正し、社会全体を豊かにするという政府のスローガンだ。目をつけられるのは、格差が特に激しい教育、不動産、巨大IT企業、芸能界などである。
・教育問題
中国政府が気にかけていた貧困層では、現在はほとんどの子供たちは学校に通っているものの、学習塾に通う経済的余裕はなく、そもそも学習塾がない農村も多い。また農村では両親が出稼ぎに出ているため、祖父母しかいない家庭も多い。このような子供たちは「留守児童」と呼ばれ、全国に6000万人以上もいると推定される。貧困層の場合、両親自身もしっかりとした家庭教育を受けずに育っていることもあり、子供に何が正しくて、何が間違っているのかを教えられない「貧困の連鎖」の問題も生じている。
さらに、中国では30年以上も実施した一人っ子政策も、家庭教育に少なからず影響を与えてきたという側面があり、これが、政府がしつけの問題にまで介入に乗り出さざるを得ない背景にある。
・不動産問題
中国人にとって不動産は非常に重要な存在である。元々職場である「単位」からただ同然で与えられていた住居を安価で払い下げられ、1990年代以降、初めて自分の不動産を手に入れた中国人にとって、値上がりし続ける住宅は、「金のなる木」だった。不動産価格は、これまで一般的な中国人の年間所得の7〜8倍、都市部では20倍と言われており、長い間不動産バブルは続いてきた。
しかし、2021年、政府は不動産規制を発表。過熱した不動産市場を抑制するための政策を次々と打ち出した。中国恒大集団の債務問題も、不動産規制が引き金だったことはよく知られている。
日本では、中国政府は国民のことなど考えず、何事も強引に推し進めるというイメージを持っている人がいるかもしれないが、政府は、この政策は国民からある程度支持されるだろうとわかっているから、やっている。
選挙で政権を選択するという政治制度が実質的に存在しない中国では、かえって世論の支持を得られなければ、政府の正当性について国民から認められない。
政府が巨大企業や富裕層に対する不満を汲み取り、格差解消に向けて取り組んでくれている、と前向きに受け取る中国国民は少なくない。