ブロックバスター戦略とは
「ブロックバスター戦略」はエンターテインメント商品の生産や、マーケティングにとって最善の策なのかという問いに対する答えは「イエス」だ。ブロックバスター戦略を奉じる映画スタジオは、リソースをポートフォリオの製品に均等に割り振るよりも、制作とマーケティング費用を少数の作品に割り当て、莫大な売上と利益がもたらされる事を狙う。たとえ大した確証はなくても、映画スタジオは最もヒットしそうな作品に大きく賭ける。多額の予算を投じて多くの集客を目指す作品を製作するのだ。
2010年を例にすると、ワーナーはその年22本の映画を公開しており、製作費に約15億ドル、全米での宣伝広告に7億ドル以上かけた。製作費予算の1/3は『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(2.5億ドル)『インセプション』(1.75億ドル)『タイタンの戦い』(1.25億ドル)に投じられた。
高額を投じた上位3作品は、総製作費の1/3を占めるに過ぎないが、同年の興行収入に占める割合は全米で40%以上、全世界で50%以上だった。年間余剰金の60%以上が上位3作品から生じている。
投資を少額に分散してはならない
ブロックバスター戦略が生む最良の結果は、増益に貢献する映画をもたらす事だ。そのためには、相当額の投資を行う必要がある。使える予算を多数の小規模映画に万遍なくバラまく事ではない。注目を勝ち取るために、競合作品より抜きんでる事が、ブロックバスター戦略の意図だ。筋金入りのファンでさえ、1週間に1本しか映画を観ない。その人達に必ず選んでもらえる映画を作らなくてはならない。
ブロックバスター戦略の成功は、マーケティング費用を含めて考えると一層明らかになる。高額を投じた作品ほど、広告の効率性がいい。映画を全国的に支援するためには、とにかく観客に存在感をアピールしなくてはならないので、ある程度の金額が必要になる。しかし、看板映画を後押しするために費用をかけても割高にはならない。製作費の1/3を占める上位3作品は広告宣伝費の内22%程度しかかからなかった。
グローバル市場の重要性が高まると共に、ブロックバスター戦略の妥当性も増している。海外の興行成績は、特に看板映画に偏る傾向がある。海外の市場では米国に比べ映画館の数が相対的に少ないため、海外市場は米国よりも映画を精選する。そのため、スター俳優や有名なキャラクターが求められる。
高収益を出すために多額の金を費やす事が、ブロックバスター戦略を正しく実践する事ではない。適切に賭ける事が重要である。ブロックバスター戦略は当然ながらリスクを免れないし、スタジオが映画にかけられる予算についても限界がある。しかし、絶対に肝に銘じておかなくてはならないのは、製作費が低予算の映画を重視する方が、即ち少額を数多くの対象に賭ける方が、実はスタジオにとってはるかに大きなリスクを負う事になるという点だ。少額投資が実際に儲けを生む事があったとしても、高額投資の映画はさらに大きな利益を平均して生み出す。
ブロックバスター戦略はやめられない
出版や映画製作、テレビ番組制作における変動性、それに消費者は移り気であるという事実を考えると、新作の需要を予測する事は極めて難しい。売れる可能性を示す唯一の手がかりと言えば、過去のヒット作との類似点が挙げられる。だがそれは、業界関係者にも自ずと明らかなので、ある特徴をもった商品にどっと関心が集まる。すると激しい争奪戦が起き、対価が高騰する。
しかし、ブロックバスターに賭ける事をやめたら別の問題が生じる。著作権代理人は一番人気の本の企画書や映画の脚本を送ってくれなくなる。才能溢れる編集者や映画製作者などクリエイティブな人が職を辞す。営業やマーケティング等の従業員の奮闘を期待できなくなる。映画館等のチャネルに対する影響力が衰える。