イノベーションとは何か
自分の意志に従い、信念を持ってやり続ける人がいる。それに賛同した人が集まって、新しい価値が生まれる。最後に外部の人たちがその価値に「イノベーション」というレッテルを貼る。
つまり、「自分は今イノベーションを起こしているんだ」という人はおらず「自分がやりたいと考えること」をやり切った後に新しい価値が生み出され、それを「イノベーションだ」と外部から言われる。
そして、「信念」を持ってやり続けるという意味では、イノベーションとは、たった1人から始まると言ってもいい。但し、1人ではイノベーションはなし得ない。多くの人の協力や応援があって、はじめて実現する。
では「イノベーション」とは何か。経済学者シュンペーターは、イノベーションの核となる概念を「新結合」という言葉で説明し、次の5つの例を挙げている。
- 新しい財貨の生産
- 新しい生産方法の導入
- 新しい販路の開拓
- 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
- 新しい組織の実現
これら5つから、イノベーションとは「技術革新」だけではないことがわかる。新しい仕組みを創って、新しい価値が生み出されたら、それはすべてイノベーションである。
「新しい軸」の生み出し方
イノベーションとは、「新しい軸」を生み出すことである。事業の幹である「軸」が定まっていないと、大抵うまくいかない。オムロンでは「新規事業を立ち上げる時には、幹と枝と葉っぱをハッキリさせろ」と言われた。出てきたアイデアが「幹」にあたるアイデアなのか、「葉っぱ」にあたるアイデアなのかで、結果は大きく変わる。だからこそ、そのアイデアが「幹」「枝」「葉っぱ」のどれなのかを見極めることが大切である。事業の「幹」となるアイデア、つまり事業が向かうべき方向を示す「軸」が定まると、大きな事業に育つ。
アイデアが「幹」なのか、「枝」なのか、「葉っぱ」なのかを見極めるには、アイデアを出すたびに考えるより他ない。イノベーションを起こしたいと思うなら、まずは「幹」のアイデアを考えることが大切である。
「新しい軸」を生み出す第一歩は、ファクトを集めること。調べられるだけの文献を調べ、その分野に明るい人の話を聞き、あるいはお客様の話に耳を傾け、現場にあっては「何が課題なのか」「何に困っているのか」といったファクトを集める。
ファクトを集めたら、それを眺めつつ、今抱えている解決課題を「そもそも、どういうことだろう」と一度俯瞰して抽象化してみる。そして、そこから生まれた観点から、今度は同じファクトを具体化して考えてみる。その繰り返しが、「新しい軸」を生み出す原動力となる。
「新しい軸」の生み出し方は、トンネル工事に例えることができる。トンネルを掘る時は、1つの方向から穴を掘るのではなく、両側から掘り進めて貫通させる。「新しい軸」を生み出すのも同じである。
「こうありたい」と意志入れした未来から、バックキャストで社会的課題を考えていく。またそうした未来をつくるために、今現場で何が起こっていて何をやるべきかをフォーキャストで考える。「未来」と「現在」の両方から掘り進めて、真ん中あたりで出会う「トンネルが貫通する地点」にビジネスにおける「新しい軸」のヒントがある。この真ん中あたりがわかっていないと、イノベーションを起こすための軸は生まれにくい。
イノベーションの構想はたった1人からでも始められるが、その実現のためには様々な立場の人を巻き込むコミュニケーション力が求められる。その第一歩として、「未来から考える人」と「現場から考えていく人」が常日頃からコミュニケーションをとっておく必要がある。
興味関心のポケットを持つ
イノベーションにつながる「ちょっとしたWILL(意志)」は、自分が面白いと感じたこと、自分が好きなことから生まれてくる。言い換えると、頭の中に面白いことや楽しいことをたくさん蓄えれば蓄えるほど、「ちょっとしたWILL」も生まれやすくなる。
そのために役に立つのが「興味関心のポケット」をいくつも持つことである。「興味関心のポケット」とは、自分が興味や関心を持った情報を集めて整理するための仮想のポケットとして頭の中にある。たとえば「社会政策」「コロナ」「児童教育」などと、自分自身の興味関心に合わせて見出しをつけたポケットを頭の中にどんどん増やしていく。すると、人と同じものを見ていても、自分にとって興味深く、また必要としている情報をたくさん受け取ることができるようになる。