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誰がアパレルを殺すのか

発刊
2017年5月25日
ページ数
252ページ
読了目安
0分
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なぜ今、アパレル業界は苦境に陥っているのか
かつてない不振に陥っているアパレル業界。「日経ビジネス」の記者が、その不振の原因が何なのかを取材して、まとめた一冊。

アパレル業界の不振

国内のアパレル業界がかつてない不振にあえいでいる。オンワード、ワールド、TSI、三陽商会という、業界を代表する大手アパレル4社の2015年度の合計売上高は約8000億円。2014年度の約8700億円から1割減少している。2016年度も引き続き1割程度減る見込みで、純利益も急降下する。

店舗の閉鎖やブランドの撤退も相次いでいる。2015〜2016年度に、大手4社が閉店を決めた店舗数は1600以上。ワールド、TSI、三陽商会は希望退職も募っており、その総数は1200人を上回った。その影響は、アパレルを主力商品としてきた百貨店にも及び、店舗閉鎖や売り場の縮小が続く。

アベノミクスが一定の成果を上げ、マクロ経済が比較的安定している中で、なぜアパレル業界だけが今になって突如、深刻な不振に見舞われているのか。

不良在庫を生み出し続けるアパレル業界

洋服を作り、それが消費者に届くまでの流れを「サプライチェーン」と呼ぶ。アパレル企業が直接、または商社やOEMメーカーなどを経由して工場に洋服を作るよう指示し、完成した洋服はアパレル企業が専門店に卸す、もしくは百貨店や直営店などを通じて消費者に販売するというのが流れだ。

川上から川下へと洋服が移動していく中で、必ず不良在庫が生まれる。工場がアパレル企業の需要を見込んで作った洋服が予想よりも売れずに余ったり、セールで売り切れなかったりした商品が不良在庫となる。作った商品が見込みほど売れず、不良在庫が発生してセールに回るのは他の業界でも珍しくない。アパレル業界が他と違うのは、大量の売れ残りを前提に価格を設定し、ムダな商品を作りすぎている点だ。アパレル市場は約20年で2/3に縮小している一方で、国内供給量は約2倍になっている。

アパレル業界が大量の「ムダな」商品を作るようになったきっかけは1990年代、バブルが崩壊して景気が悪化し、それまでDCブームに沸いていた市場が、一気に冷え込んだことが最大の転機だった。それまでは、どんなに高い値段を付けても、消費者はブランド名に引き付けられ、店の前に長蛇の列を作って洋服を買いに来た。しかし、そんな黄金時代は終わり、消費者の財布の紐は急に固くなった。

内輪の論理によるビジネスモデルの崩壊

そして、大手アパレル企業は苦戦する中で、ユニクロや欧米ファストファッションが成功する。ユニクロや欧米ファストファッションは、アパレル産業の川上から川下までの情報を正確に把握し、サプライチェーン全体を合理的に管理している。消費の変化に応じていち早く工場や売り場に指示を出すのが大きな強みだ。中国での大量生産や積極的な出店攻勢で注目を集めていたが、強さの本質はサプライチェーンのすべてを把握している点にある。だが、それに気づかなかった既存の大手アパレル企業は、製造コストを下げられると、安易に中国生産に舵を切った。中国で大量に作り、スケールメリットによって単価を下げる。代わりに大量の商品を百貨店や駅ビル、SCやアウトレットモールなど、様々な場所に供給した。消費者のニーズに目を向けず、需要に関係なく、大量生産し、その結果として大量の不良在庫が発生するようになった。そして2014年頃に崩壊を迎えた。

買いたい服がない

アパレル業界が手を染めた大量生産、大量出店というビジネスモデルは、業界のあらゆるプレーヤーを不振に追い込んだ。不振を受けた場当たり的な対策は、商品の技術力や企画力の低下も招いた。OEMメーカーに「何でもいいから、売れ筋商品を持ってきてくれ」と頼み続けるうちに、自ら売れ筋を生み出す力を失っていった。