顧客体験価値に目を向けよ
私達は、自社の顧客である消費者のニーズや欲求をある程度知っているつもりになっているが、実はあまりよくわかっていない。成熟した社会ではなおさらで、欲しいものはある程度揃っており、ある種の欲求を満たそうとする場合、たくさんの選択肢が存在する。
モノやサービスを買う時には、必ず「目的」がある。しかし、その目的が商品とダイレクトに結びついているケースは意外に多くない。例えば、「涼みたい」という目的を達するためには、アイスクリームや清涼飲料水、エアコンの効いた喫茶店、ホラー映画など、様々な商品・サービスがあり、解決手段が1つとは限らない。
ところが企業の中で働いていると、こうした単純な事実に気付かない。アイスクリーム会社は、別のアイスクリーム会社だけを競合だと思っている。しかし、消費者から見れば、喫茶店や映画館も競合である。そう考えると、商品そのものだけではなく、消費者の潜在的な欲求を満たす他の要素、例えばお店のデザインや店員のサービスなど、消費者の欲求に沿う形で顧客に満足を提供できるよう注意を払う事が必要になる。
顧客体験価値を高めよ
モノやサービスなどを含むトータルな体験の価値を高めるためには、業界や企業の枠組みや習慣といった供給者側の都合など無視して考える事が大切である。消費者の側から見ると、業界や企業の枠組みなど、ほとんど意味を持たない。
既存ビジネスを根本的に見直すための究極的な拠り所は「顧客体験価値」である。モノのあふれた現代だからこそ、顧客体験価値を高める事が他社との差別化ポイントになる。
ビジネスを俯瞰する7つの問い
組織は既存のビジネス(対象顧客と価値命題)に沿って最適にデザインされ、無駄は排除されている。そして、組織が進化して分業が進むほど、限られた情報しか受け付けない仕組みになっている。しかし、今日のように変化の激しい環境の中で、習慣と組織的視野狭窄に捕われた状態では、環境への適応は困難である。そこで有効な方法が「自らの視点を無理やりに変えてみる」というものである。
以下の問いを通じて既存ビジネスを新しい文脈でとらえ直し、視野を広げる事で、イノベーションのきっかけをつかむ。
①今日のビジネスモデルはなぜできたのか?
「過去の歴史」からビジネスモデルの原点を振り返る。すべての価値は、文脈に依存する。時代が変わり価値観が変わったら、ビジネスも変わってしかるべきである。過去の成功や定番商品、看板など、過去の資産にあぐらをかいていては企業は生き残れない。大切なのは、引き継がれた商品やブランドなどの「資産」ではなく、それを作り上げた先達の考え方や当時の提供価値である。
②顧客の真の欲求とは何か?
「顧客の側」に立ち、購買の目的を理解する。商品やサービスのレベルから、一歩踏み込んだ「顧客体験価値」のレベルまで検討の視野を広める事が大切である。
③新しい現実とは何なのか?
「偶然の成功」から「想定外」の見落としている現実に気づく。私達は身の回りで起こりつつある変化について、必ずしも十分認識しているとは限らない。特に専門領域で長年仕事をしていると、プロとしての常識が身に付く事で、常識から逸脱する事には否定的になる傾向がある。大切なのが「偶然から生み出された成功」を見逃さない事である。
④未来の兆候はどこに現れるのか?
「極地的な市場」にイノベーションの兆候を探索する。世の中を一変させるようなイノベーションでも、大抵は限られた領域、イノベーションの恩恵を最も被りやすい極端な領域や周辺的な領域から始まる。
⑤バルコニーから何が見えるか?
「クラスターの垣根」を越えて彼方との関わりを考える。
⑥環境の異なる世界で何ができるのか?
あえて「異国」に土着化し、現地目線で可能性を検討する。
⑦社会のどんな課題を解決したいのか?
社会課題を解決するために「ビジネスの枠」を越えた協業を模索する。