外の社会を知らず、定年まで何もしないことがリスク
これから数年後に定年を迎える方にとっては、組織以外からも情報や刺激を受ける場所を確保しておかないと、定年退職後、何も情報が入ってこなくなってしまうことがあり得る。時代の移り変わりや今回のコロナのように想像できない事態が起こった時、組織からもらう情報だけでは立ち行かなくなってしまう。
本質的な意味で、自分の資質をアップさせるとは、これまでの経験だけでなく、常に新しいものを受け入れて学び、実践することである。今のうちから実践するかしないかで後の人生に大きな差を生み出す。
「会社」という組織では「会社を守る」ことが第一優先になり、結果的に「失敗をしないようにすれば、それ自体が成功だ」といった雰囲気さえ持っている企業も見受けられる。そういうコミュニティに何十年もいると「失敗するかもしれない」「傷つく可能性がある」といったリスクへの挑戦はそう容易くできない。しかし、外の社会を知らず、定年をしてからも何も実践せぬまま過ごしていることこそがリスクである。
やりたい仕事をじっくり考えよ
サラリーマン生活を終えて悠々自適な老後を送れるのは限られた人だけである。しかし、「第二の仕事」を探す際、「そんなのは俺のやる仕事じゃない」「やりたい仕事がない」と、職種を絞れぬまま時間だけが過ぎていくケースをよく見聞きする。こういった方は「俺のやる仕事は何なのか」を、突き詰めて考える必要がある。
定年退職後は守るべき会社やその中での立場などない。「守るべきものは何なのか」を今一度考えるべきである。そして、定年後の「仕事」では「我慢する」ものは選ばないほうが良い。「楽しい仕事」を見つける旅に出るつもりで、自分が「やりたいこと」「やりたくないこと」を熟考し、深掘りしていくことが良い。
自分軸でキャリアを形作るための考え方
「プロティアン・キャリア」とは、環境の変化に応じ、自分軸を持って自分自身を変化させていくという柔軟でしなやかなキャリア形成のことを指す。
組織から離れ、定年後もずっと生きがいを持って生きていきたい場合、このプロティアンは言わばその処方箋のようなもの。それまでのキャリアとは違う、人生のものを豊かにさせることを目指す上でとても役立つ。
プロティアン・キャリアでは主体者が個人である。現役時代は上司からの指示や社内で掲げられた一定の目標・課題に対して取り組み、それらをクリアしていくことで組織内キャリアを高めていくことができた。
しかし、定年後は、もう誰も目標や課題を与えてくれない。目標や課題のみならず、目的も自分自身で設定しなければならない。自分自身を高め、定年後もずっと生きがいを得ていくためには、「自分軸」で考え、学び、行動していくしかない。
旧来のキャリアでは昇進、権力、地位、給料という数字や肩書といった目に見えてわかりやすく、階段のようにステップアップしていくものだった。一方、プロティアンでは自由、成長、心理的成功になるので、主体者自ら価値観を探り、自分にとっての成功とは何かということを生涯にわたって実践していかなければならない。
この「心理的成功」には、次の2つが必要であると言われている。
- アイデンティティ:自己の価値観、興味、能力などに対する自己理解
- アダプタビリティ:変化する環境に対して反応学習、探索と統合力、その状況に適用させようとする意欲
この2つは、どちらかだけが高くてもプロティアン度は高まらないという点が重要である。
個人のキャリア形成を促進する資源の中でも、特に他者との人間関係が重要である。なぜなら、個人の学習に大きな影響を与えるものだからである。キャリアは孤独の中で形作られるものではなく、周囲との関係性のネットワークの中で相互に影響を与え合って構築されていく。
プロティアンの実践方法
プロティアンを実践しながらのライフキャリア形成の取り組みは、早ければ早い方が良い。その具体的な実践方法は次の通り。
①人生の「棚卸し」をする
ライフキャリアシート(過去)にこれまでのキャリアの蓄積や苦手なことを書き出す。次にライフキャリアシート(現在と未来)に目標を設定し、課題や具体的に必要な行動を把握する。
②社外のコミュニティに参加する
棚卸しによって、過去・現在・未来の自分について把握し、アイデンティティを高めたら、次は他者のニーズを明確にし、そのニーズを自分がどのように満たせるか見極める。自分は他者に対してどのようなサービスを提供できるかを考える。そのために必要なこととして、小さな社会である社外のコミュニティへの参加が重要になる。参加して、自分をぶつけることで、アダプタビリティを高めることが必要である。