ボイステック革命が始まった理由
2021年の今、音声とテクノロジーによる大きな変革「ボイステック革命」の予兆が、ようやく日本でも感じられるようになってきた。2021年1月にクラブハウスが突然日本にやってきてブームを巻き起こし、多くの人が音声の良さに気づくきっかけとなった。
この革命は、情報と人のあり方を変える、スマートフォン登場以来の大きな変化だ。アメリカでは、GAFAの中で、最後までボイステックへの取り組みが見えていなかったフェイスブックが2021年4月、とうとう音声サービスへの参入を明らかにした。GAFA以外にも、マイクロソフト、ネットフリックス、ツイッター、スポティファイなど、IT大手がほとんど参入している。
変革の鍵となったのは、次の3つだ。
①音声テクノロジーの進化
音声テクノロジーの進化の中でも特に重要なのは、解析の技術だ。これまでのデジタル化された音声は、単に振動の高低としてデジタルで「蓄音」されていただけで、どんな言葉や情報が入っているのかわからない、ただのデータの山だった。ところがここ数年で、音声を解析する技術が飛躍的に進み、デジタル音声データの内容を機械的に「理解」できるようになってきた。アップルのSiri、グーグルのGoogleアシスタントなどの音声アシスタントが生まれたのは、こうした技術の進歩が背景にある。
音声ファイルが、中身のわからない状態だとお金にならない。しかし、機械的に解析できるようになれば、検索が可能になる。そして広告の可能性が広がり、マネタイズの源泉になる。
②デバイスの普及
アメリカでは、スマートスピーカーの普及が、2020年で成人人口の34%を占めるほどになっている。一方、日本においては、市場投入がアメリカから3年程度遅れたこともあって、まだアメリカほど普及は進んでいない。2019年の普及率は7.6%で、2023年に24.4%に達すると予測されている。声で操作できる音声のOSは、もう廃れるという方向には進まないはずだ。
ボイステックの未来にとって、スマートスピーカーよりも大きなインパクトがあるのが、ワイヤレスイヤホンの普及だ。ワイヤレスイヤホンとスマホを連携させているということは、手元よりもっと近い、耳元に、常にSiriやGoogleアシスタントがいることになるからだ。
ワイヤレスイヤホン普及のきっかけとなったのは、アップルが2016年に発売した「AirPods」だ。音源とコードで繋がれているというわずらわしさから解放されただけでなく、イヤホンにマイクや簡単なリモコン機能も搭載している。音声を聞くだけのためのものではなく、耳に装着した小型コンピューターのような役目を果たすようになってきている。この流れは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴うリモートワークの広がりにより、オンライン会議目的や、仕事をしながらの「ながら聴き」需要もあって加速している。
③聴く習慣の広がり
ワイヤレスイヤホンの普及は「いつも耳にイヤホンを入れっぱなし」の人を増やすことになり、「絶えず何かを聴いている」という習慣を広めることにもなっている。音声の最大の特徴は、何か別のことをしながらの「ながら聴き」ができる点にある。ワイヤレスイヤホンによってさらに「ながら聴き」が簡単にできるようになり、音声コンテンツ市場の盛り上がりに大きく貢献することになった。
今、世界で音声市場が成熟しつつあるのは、アメリカと中国だ。月に1回はポッドキャストを聞く人口は、アメリカが26%、中国が29%、日本は8%だ。アメリカのポッドキャスト市場は急速に成長しており、今やアメリカの12歳以上の人口の37%がポッドキャストを聴いているとの試算もある。ポッドキャスト広告市場も急拡大しており、2021年は10億ドルを超えて、3年前の3倍近くになると予測されている。
日本の音声市場はようやく成長し始めたところだ。日本の音声コンテンツは、BGM的なものは多くあるが、集中して聴き思考を要するものは諸外国に比較して少ない。情報欲求や学びの欲求が高まる中、思考や学びにつながる音声コンテンツの需要はもっと広がるはずだ。