デザインの誤解 いま求められている「定番」をつくる仕組み

発刊
2016年1月31日
ページ数
240ページ
読了目安
229分
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定番のつくりかた
どうすれば「定番商品」を生み出す事ができるのか。クリエイティブディレクターの水野学氏などが、長く愛される定番商品のつくり方を、様々な事例をもとに紹介している一冊。

「定番」が求められる時代

現代の日本は、本当に欲しいものが見つかりにくくなってしまった。分かりやすい機能の進化は、技術が成熟化するにつれ、次第に起こりづらくなった。その結果、機能面では各社横並び。本質的な機能とは関係のない、周辺部分の工夫で独自性を探る「差別化」競争を繰り返すことになった。そして、市場には「本当に欲しいと思ってもらえる、ど真ん中の製品」がなくなってしまった。

定番をつくり出すという事は、世の中に必要とされているもののゼロポイント(基準値)を生み出していく事である。「定番商品」とは、そのジャンルにおける「共通認識」のベースとなるものである。

定番商品となるには、機能デザインが満たされている必要がある。また、そのもの「らしさ」を満たしている事が不可欠である。しかし、世の中には「機能」や「らしさ」が欠落した「デザイン」がたくさんある。

そのジャンルの「定番」が明確になり、「ゼロポイント」が定まること、そして、そのゼロポイントができる限り高くなる事は、良いモノに溢れた心豊かな暮らしを生み出す土壌、文化を生み出す事ができる。

 

定番をつくるためには何を意識すれば良いか

デザインには「機能デザイン」と「装飾デザイン」の2種類がある。技術が進歩するにしたがって、必要不可欠な機能デザインは、だんだんと満たされていく。すると、新しい商品をつくるためには、目を引く色や柄、奇抜な形といった装飾デザインで差別化を図る事がメインになっていく。

機能デザインが満たされると、商品はコモディティ化していく。すると、次の段階として、差別化、差異性を求めていく。そのため、そこに装飾を施していく。こうした事が積み重なった結果、デザインという言葉のイメージは「装飾すること」というニュアンスで解釈されてきた。

装飾デザインは大事である。しかし、何かをデザインする時には、基本性能として、機能デザインを満たす事が必須条件である。その上で、装飾デザインを考えていく。機能デザインと装飾デザインの両方が満たされてこそ、本当のデザインである。それを装飾だけだと捉えてしまうと偏ったものが生まれてしまう。当然、長く愛される定番商品にも成り得ない。

 

定番の条件

時代に左右されない定番商品を生み出すためには、何が必要か。一般的には、世の中に出てそれをたくさんの人が使ってくれる事で、結果的に定番になったものがほとんどである。よって「定番の条件」というのは、逆算して考えた結果を試す事になる。

定番商品たり得る条件には、基準となる5つの要素がある。この5つが完璧に満たされていればいるほど、定番に近づいていく。但し、この内のいくつかがずば抜けて優れている事によって、定番たり得ている場合もある。

①形状
その「形」に何を求めるかによって、出てくる答えは大きく異なる。

②歴史
「歴史」という条件は「支持率」の高さ、「支持期間」の長さという2つの要素に細分化できる。商品の支持率を上げるためには「信用度」「完成度」「認知度」の3つの条件が必要である。人々の支持をいかに集められるか、その支持を受けている期間をいかに継続できるかを考える事は、定番に近づく大事な要件の1つである。

③素材
④機能
技術革新等でこれらのポイントが特に秀でている場合、それだけで新たな定番の座に就ける可能性がある。

⑤価格
価格は単純に安くて買いやすければいいという事ではない。安すぎる価格はその商品の本当の価値を伝えられず、価格競争で自滅してしまう事になりかねない。

 

定番の生み出し方

定番を生み出すプロセスは「過去を知り、現在を考え、未来を創る」という事に集約される。定番商品をつくろうとする時には、まずそのジャンルの過去について調べる。

「過去を知る」作業の後は「現在を考える」作業に移る。そのためにはまず、過去を知ってきた過程の中で、変わっているものと変わっていないものの存在に注目する。定番のAという商品が生まれた当時の背景と現在の時代背景は、同じであるか、生活様式は変化しているか、人々の趣味嗜好は変遷していないかという事に注目する。「現在を考える」際には、その前提として必要となる事がある。

①できるだけ多くの媒体から情報を得ること
②「ソーシャルコンセンサス(潜在的共通認識)」を探ること
シズル(思わず手に取りたくなるような「そのものらしさ」を見つけ出す。シズルを見つけ出すには「〜っぽい分類」を考えて、それを念頭に置く。

 

流行にしない

定番とは言い換えれば「長い流行」である。長い流行に至るものには、次の3つの要素が含まれている。

①イノベーション
これまであったものを組み合わせる。

②ありそうでなかったもの
未来から見て当たり前のものを生み出す。

③許容値が高いこと
時代に合わせるための変化を受け入れても、本質が変わらない強さを持っている。

定番というものを築き上げるのは、これまでにあったものを、いかに真摯に見直すかという作業が大切である。

参考文献・紹介書籍