ネスレのリーダーに求められること
「ネスレ マネジメント及びリーダーシップの基本原則」には、ネスレの管理職に求められる資質として、次のものが挙げられている。
・勇気、度胸、プレッシャーの中でも平常心を保てる能力
・学習能力、新しいアイデアに対するセンス、共感能力
・コミュニケーション能力、社員をやる気にさせ後押しする能力
・革新的な社風を創りだす能力
・水平思考
・信用できること、言行が一致していること
・変化を受け入れ、方向転換ができる柔軟性
・国際経験と異文化を理解する能力
・幅広い物事に興味があること
・一般教養があること
・責任ある行動を取り、身なりがきちんとしていること、健康であること
ネスレの企業文化の始まりは、創業者のアンリ・ネスレに遡る。彼は、仕事で海外を飛び回るうちに、各国の食習慣への強い興味が沸き、外国の伝統を尊重する姿勢を持つようになった。創業当初から、「共通価値の創造」(CSV)を示唆する考え方があった。つまり、グローバル戦略を取りながら、何よりローカルビジネス、ローカルとの関わりを優先する姿勢である。
ネスレの企業文化
スイス由来の企業文化は、ネスレの企業リーダーシップを特徴づける以下の点に現れている。
・理論より実践
・夢や幻想ではなく、事実に基づく現実的な取り組みや判断
・信頼と率直さに基づく裏表のない人間関係
・個人対個人の直接的なコミュニケーション
・謙遜、スタイル、質へのこだわり
・トレンドの変化に対する柔軟性と同時に、人間の基本的価値の尊重
・短期トレンドや自称「権威」に惑わされない
「ネスレ マネジメント及びリーダーシップの基本原則」は、「コーポレートガバナンス規約」のような意味を持つようになった。社外から管理職を迎える際にも、こうした原則への同意が採用の前提条件になっている。さらに人事採用において、職務上の資格の他に、ネスレの企業文化になじむかどうかが吟味される事になっている。
ネスレの使命
食品のほとんどは消費者の感情や文化的な価値観と深く結びついており、ネスレのマネジャーはそれを理解し、尊重する必要がある。ネスレの使命は、文化的な価値観やイメージを外国に輸出する事ではなく、各市場にその文化に合った製品を提供する事だ。食品ビジネスは非常にローカルな性質を持っているため、現地の状況に適したものである事が重要だ。
すべてはメンバー間の能力、競争、連携のバランスにかかっている。互いの面倒を見る事が大事で、そうして初めて集団として生き残る事ができる。ここで重要なのが信頼だ。ネスレの社員は、共通の価値観と信念を持つ事で感じられる社会的絆によって結びついている。但し、そうした価値観や信念は、そうした根底にある原則を見失わずに、状況の変化に応じて実行に移す事が必要だ。
価値観が重要
ネスレの成功の本当の理由は、市場における地位でも財務状態でもなく、社内で「ネスレ・プラス」と呼ばれている現象だ。ネスレ・プラスは、定性的なアプローチを取るリーダーシップスタイルや人事方針、労使関係といった無形価値の事である。アンリ・ネスレが同社を創業した時、彼は人間主義的な姿勢を持ち、単なる成功を求めなかった。当時、乳幼児死亡率が高かったため、子供達の生命を助ける製品を模索し、ネスレの乳児用シリアルを発明した。ネスレのリーダーシップでは今でも、価値観が重要な役割を演じている。
ネスレは、栄養を健康の要因として最も重要だと考えている。健康は適切な栄養なしにあり得ない。栄養不足や慢性的な飢餓に苦しむ人々と、工業国の人々、両極の栄養の問題に対処しなければならない。ネスレは、途上国や新興国の貧困層が栄養価の高い食品を低価格で食べられるようにする事を目標にしている。