イノベーションを起こすにはコンセプトが必要
私達はコンセプト(概念)がなければ、何事も見る事ができない。コンセプトは経験的世界という暗闇から物事を照らし出す「サーチライト」である。面白いのはイノベーションが起こる時、このサーチライトが変わる事である。例えば、スターバックスは「サードプレイス」というコンセプトを開発した。それまでのコーヒーショップでは薄利多売のために回転率を上げる事が重要で、その手段として「居心地の悪い椅子」が常識だった。ところが新しいコンセプトはこれを覆し、くつろぐ場所にふさわしい「ソファ」という新しい常識を作り出した。
サーチライトの照らし直しこそがイノベーションである。つまり、イノベーションを起こしたいのであれば、常識を覆す「コンセプト」を作らなければならない。
コンセプトは身体で考える
常識を覆すコンセプトには、ワクワクするような新鮮味とスケール感があって、脳みそとして理解できる以上に身体を揺さぶるような衝動がある。この「身体的に進むべき方向を直感できること」というのは優れたコンセプトの特徴である。
身体的に進むべき方向を直感できるサーチライトを作るためには、脳みそで正しい事を積み上げていくだけでは十分ではない。主観的な経験や直感までをも取り込む「身体的思考」が必要になる。コンセプトは次の2つの相互作用を通じて生まれる。
①客観的で論理的な「マネジメント軸」
組織や個人の「ビジョン」と「具体策(現実)」の間の行ったり来たり。「具体策」により「コンセプト」は実現し、「コンセプト」により「課題」は解決され、「課題」解決によって「ビジョン」が実現する。たとえどんなに面白い着想でも、このフレームで整理できなければコンセプトとは言えない。コンセプトは単なる思いつきではなく「ビジョンの実現に向けて議題を解決する新しい視点」である。
②主観的で感覚的な「コミュニケーション軸」
「ターゲット」と「商品・サービス」間の行ったり来たり。「ターゲット」と「商品・サービス」という、放っておいたら縁がないままに終わる両者を結び付ける運動である。そもそもターゲットは数値データで示されるほど薄っぺらな存在ではない。口説くためには、過去のデータが詰まった「脳みそ」だけでは不十分で、相手の気配を感じ、やるべき事を直感する「身体」を総動員して初めて道が開ける。全人格を懸け「自分ゴト」で考え抜く。
この2つの軸を両立させる思考方法こそが身体的思考である。
身体的思考の方法
電通の日常を観察して開発したのが「ぐるぐる思考」である。ぐるぐる思考は4つのモードからなり、この4つのステップを1週する事で、身体的な思考ができる。
①感じる
「時代・社会」「生活者」「自社の商品・サービス」「広く競合の商品・サービス」という4つの切り口を忘れずに、コンセプトの材料を集める。ここで重要なコツは正しいか正しくないか判断せず、どのような資料もまずは受け入れる。
②散らかす
「どうすればターゲットの気持ちを動かせるか?」について生々しく考え抜く。ここでのコツは「行ったり、来たり」を忘れないこと。
③発見
コンセプト発見の本質は「整理」。散らかすモードで行っていた「行ったり、来たり」をする中で、身体的に取り組んで来たコミュニケーション軸が「課題ーコンセプト」でしっかり結び付き、脳みそでチェックしてもビジョンと符合するコンセプトが見つかる。
④磨く
コンセプトを手に入れたら、あとは商品・サービスという具体策を形にする。新しいサーチライトに従ってそれぞれの分野の専門家を集め、ゼロベースで全体を再構成する。